カルチェラタン

第十五話 誰がために鐘は鳴る

企画:Familiar Company
作者:饗庭璃奈子(あいばりなこ)
比率:♂1♀2
時間:約16分

廃百貨店・カルチェラタン。
謎に包まれた〝貝の火〟を巡り、闘技者たちは人知れず、日々カルチェラタンで抗争をする。光を求めて闘い続ける、透明な子供たちの行く末は──。

《これまでのあらすじ》
桜庭嵐、コードネーム・旅人。異端の少年闘技者は、盲目の義父のために闘い、殺し、罪を重ね続ける。嵐を罰から救おうとする友人・千景をも振り捨て、嵐はなおも罪を重ねるため殺戮を繰り返すが、その方法に疑問を抱く者がもう一人、いた。

※Skype上での声劇・ニコニコ生放送などで、ご自由にお使い下さい。
※企画などでご使用になる場合は、まずはご連絡下さい。

桜庭 嵐さくらば あらし
コードネーム:旅人。女性演者推奨。カルチェラタンの闘技者の一人で中学三年生。小柄で身体能力も低いが、最強の人形とうたわれるローズの主であり、カルチェラタンで畏怖されている。ナイフ〝スピカ〟を手に入れたことにより、ついに自らも闘う力を得る。
ローズヒップ・ジンジャー
まるで本物の人間のように精巧に作られており、自分の意思で喋り、動きもするが、人形である。嵐を主として付き従い、なんだかんだで嵐のことを慕っている。容姿は幼いが戦闘に特化しており、最強の人形とうたわれる。わりといつもむすっとしている。
不如帰ほととぎす
カルチェラタンの闘技者の一人。完全なる肉体派だが、チームを率いるリーダーでもあり、〝理性の獣〟の異名を持つ。
嵐(M)

もう、何人殺したか、数えるのもやめた。

(表題)「カルチェラタン 第十五話 がために鐘は鳴る」

不如帰

……ぁ……うあぁっ……!みんな……死んじまった……!

残りはあなただけですね。不如帰ほととぎすさん。

不如帰

……っ、とち狂いやがって……!〝人殺しの旅人〟が!

へえ……今はそんなふうに呼ばれてるの?
ほんとここって、噂が広まるのが早いなあ。

不如帰

ああ……どいつもこいつもみんな噂してるよ……!旅人の奴は武器を手にして気が狂って、無作為な殺戮を繰り返してるってなァ!

心外だなあ。別に無作為ってわけじゃないよ。現に交流のある人たちには手を出してないし、あんまり弱すぎる人たちも狙ってない。だってかわいそうでしょ?
僕と無関係で一定以上の強さが証明されてる人だけ、殺すことにしてるんだ。強いってことは、それ相応の覚悟でここにいるってことだろうからね。

不如帰

ふざけやがって……!

名誉に思いなよ。僕はあなたのこと、強いと思ったから殺しにきたんだから。

不如帰

てめえは何のためにそんなに人を殺す!?ちょっと前までのてめえは、人形と戦略だけが闘う手段、自ら積極的に仕掛けていくようなこともしなかったはず!
まさか武器を手にして、本当に狂っちまったっつうのかよ……!

……あなたには関係のないことですよ、不如帰さん。さあ、続けましょうか。
闘技はまだ終わってないんですから。あなたが死ぬまでね。

不如帰

……くそっ、あいつらの仇!うおぉぉぉぉぉお!!!(攻撃)

うわ!……っと。あははっ、すっごい馬鹿力……!
僕、素手で壁に穴開けちゃう人ってどういう体の造りしてるのか未だに理解できないよ。身体能力じゃ、僕ってカルチェラタンでもビリッケツ、だろうからさっ!(攻撃)

不如帰

ちィっ……!(避ける)

仲間を殺されて復讐に燃え上がっても、理性を失うことはしていないっ!さすがだね……!チームを率いるリーダーって、いつもりがいがあるよっ!
あははははははっ!(競り合いながら)

不如帰

くっ!マジでとち狂いやがって……!
舐めんじゃねえぞ、おらあぁぁぁぁあっ!!!(攻撃)

うっ!(掠る)

不如帰(M)

掠った!そうだ……!いくら数多の闘技者を殺してきた殺人鬼とはいえ、冷静に見りゃたかがちびっこいガキ!人を傷つけることへの躊躇がこれっぽっちもないやいばは確かにちと厄介だが、必要以上に恐れなければ、身体能力において圧倒的に優っている俺に分がある!

不如帰

……なるほどねえ、読めてきたぜ。
おらおらァ!あいつらの無念、とくと味わいやがれ、旅人よォ!(連続で攻撃)

ぐあっ!……っく!(食らう)

不如帰

これが!ふくろうの分!(攻撃)

ぐっ!(食らう)

不如帰

これが!金糸雀かなりあの分!(攻撃)

うあっ!(食らう)

不如帰

そしてこれが!仲間を殺された俺の怒りの分だあぁぁぁぁぁあっ!!!!!(攻撃)

がはあッ!(食らう)

ローズ

嵐……っ!(物陰から様子を伺っている)

嵐(M)

(ローズに目配せして)まだ出るな、ローズ。

ローズ

……御意。

ケホッ、……何か気づいてしまったみたいですね。不如帰さん。どんな状況でも物事を冷静に俯瞰し、理性ある拳と統率力で仲間を率いてきただけのことはある。
仲間を殺されても、あなたの観察眼は健在なんですね。

不如帰

おうよ。てめえみたいなチビ、必要以上に恐れなければ勝機はあるってわかっちまったからなあ。もっと早くに気づいているべきだったよ、人殺しのガキ。
そうすれば、あいつらの命だって……!

だけど、一つ忘れていませんか?僕と闘う上で、とても大事なことを。

不如帰

あ?

ほら行きますよっ、ふっ!(攻撃)

不如帰

何!?……ハッ、血迷ったか?そんな捻りのねえ攻撃が、俺に通用するとでも?
そんながむしゃらな攻撃、余裕でかわせんだよ!

嵐(M)

そう、僕は今、敢えてがむしゃらな、捻りも何もない攻撃を仕掛けている。僕が急に動きを変えたことで、不如帰さんは口ではああ言いながらもどこかで僕を警戒する。そう、不如帰さんの意識を僕一点に集中させるために、敢えて隙を見せるんだ。
こうして隙をちらつかせることによって、勿論──、

不如帰

そらよォッ!(攻撃)

ぐッ!(食らう)

嵐(M)

多少の攻撃を喰らうことも想定内。これによって不如帰さんは僕への勝利をより確信する。いくら理性的な人でも、相手に勝てるってわかったら、ちょっとは気持ちが大きくなる。僕の弱点に気付いてしまった闘技者の相手をするのは、僕一人にはちょっと負担が大きい。そう、僕の行動の全ては、彼という獲物を確実に仕留めるための布石だ。

そろそろ頼むよ……ローズ!

ローズ

待ちくたびれたぞ……嵐!ひやひやさせおって!

不如帰

な……!?人形だと!?今までどこに隠れて……!

ローズ

慢心が仇となったな。はあぁッ!(手刀で攻撃)

不如帰

ぐあぁぁぁぁあっ!!!く、……そっ!そういうことかよ……!

そう、不如帰さん。あなたは大事なことを忘れてた。腐っても、僕は〝人形使いの旅人〟なんですよ。ね、ローズ。

ローズ

その通り。わらわの存在を忘れるとは、まんまと嵐の策にかかったな、不如帰。
あるじを傷つけた落とし前、きっちりとつけさせて貰うぞ?

不如帰

隠し玉を使って、俺の動きを封じた、だと……!最初から人形がいたのを今の今まで隠し通して、無茶苦茶な攻撃で俺の意識を惑わせて、敢えて隙さえちらつかせて……!
誠実な闘技を望んできたはずの旅人が、こんな姑息な手を……!?

もう、手段は選ばないことにしたんです。例え卑怯だと言われようとも、殺すためなら僕は、何だってする。

不如帰

本当に……狂っちまったってのかよ……。

そうかもしれませんね。僕はもう、後戻りできないんだと思います。

不如帰

一体何がお前を、殺戮へと突き動かす……?何も理由がないわけじゃねえんだろう?
そうでなきゃ、死んでいったあいつらが報われねえ!

……死んだあなたの仲間たちのために、一つだけ告げておくとすれば──そうですね、理由はあります。だけどそれ以上は、死にゆくあなたに言うべきことでしょうか?

不如帰

え、

ローズ

安心しろ。すぐに仲間たちのところへ行かせてやる。

不如帰

ひッ……!

ローズ

貴様は死ぬ。今ここで、主のため、その罪の糧となる。

不如帰

何の話だ……!

(壁に背を預け、座りこむ)悪いね、ローズ。僕ちょっと、疲れちゃったみたい。
ひと休みするから、あとはよろしく頼むよ。

ローズ

案ずるな。今日仕掛けたいくつかの闘技で、嵐は既に十分すぎるほどの罪を重ねている。疲れるのも無理はない。あとはわらわが、片を付ける。

不如帰

畜生……チクショオオオオオッ!(攻撃)

ローズ

死を目前にして、さすがに理性が揺らいだか。所詮貴様も人間、ということだな。
……ふっ。(笑って手を突き出す)

不如帰

ぬおっ!?……手刀か!(飛び退く)

ローズ

ほう?わらわの手刀の元に、自ら飛び込んでくるほど阿呆ではないか。なかなか見所のある男よ。だが、手負いの獣など、わらわの敵ではないっ!(攻撃)

不如帰

くっ……!(避ける)

ローズ

遅いな。実に遅い。(攻撃)

不如帰

ッ……!(掠る)

ローズ

これで、終わりだ。(攻撃)

不如帰

……ちィっ!そう簡単に殺られてたまるかよ!らァっ!(回し投げ)

ローズ

なっ……!?ぐっ!か、はっ……!(壁に叩きつけられる)

不如帰

俺の理性がいつ、揺らいだって?てめえの狙うその一点を正確に見定め、俺の身体能力をもってしてかわすことさえできれば、俺は大して力も込めずに、そのスピードを逆手に取って、ちっぽけなてめえなんざ投げ飛ばすことができる。いくら俺がてめえより遅くったってなあ、ちいと頭を使やぁ、対等に闘うことは可能なんだぜ?人形さんよ。

ローズ

(体を起こしながら)……手負いの獣と少し侮り過ぎていたようだ。さすが、理性の獣の異名を持つだけある。まさか今のわらわの速さと力を、見切り、受け流すとはな。
ここからは、本気でいかせて貰うぞ。覚悟はよいな、不如帰。

不如帰

ああ、上等じゃねえか。ちょうどてめえの本気が見てえと思ってたとこだ。
どっからでもかかってこいよ。

ローズ

手心は加えん。行くぞ。はぁぁぁあっ!!!(攻撃)

不如帰

させるかよ!ぐぅっ!(受け止める)

ローズ

受け止めた、か。面白い。ならばこのまま力と力の真っ向勝負といこうか。燃え上がる罰のほのおを抱いた傀儡くぐつと、理性の獣と謳われる人間。勝つのはどちらか──。(力を込める)

不如帰

ぅっ!……ははっ!こんな華奢な嬢ちゃんの、今にも脆く砕け散りそうな体のどっから、こんな力が湧くんだか……!

ローズ

全ては我が主の重ねた罪の実り故。以前のわらわの体であれば、貴様如きの力にも耐えきれず、軋みをあげていただろうな。

不如帰

だから罪だの罰だの、何のことだつってんだよ……!

ローズ

つまるところ、それがわらわの力の全ての源ということ。それだけ知ればもう十分だろう?
──のう、不如帰。

不如帰

だから何の話だかわけわかんねえって……!(不意に背後からナイフを突き立てられる)ぅっ!?何が、起こった……?ッ、旅、人……?

悪く、思わないでね。でも、これがほんとの、〝闘技〟ってものでしょ。言ったよね、殺すためなら手段なんて、もう選ばないって。

不如帰

旅人……!て、めえっ……!ッぁ……!

……っふふ。(心臓をナイフで抉り出す)

不如帰

ッ、ァあっ……!

ローズ

……!?、嵐!何もそこまですることはなかろう!?

(被せて)ローズとの真っ向勝負に集中している隙をついた、背面強襲。これなら僕と不如帰さんくらい身体能力に差があっても、確実に仕留められる。

不如帰

ぅ、ぐああああああっ……!、俺の、心臓……!

あははっ!抉り出しても、まだビクビク動いてる。すごいや。

ローズ

……!なんと、惨たらしいことを……!

不如帰

返せっ……返せよォッ……!俺の、心臓……!

ローズだったらもっと簡単にあなたを殺せたんだろうけど、それじゃあ意味がない。僕自身が手を下して殺すことにこそ、僕とローズの闘技の意義はある。だって僕が僕のこの手を汚せば、より大きな罪を犯すことができるから。不如帰さん、あなた強かったよ。きっと甘くてとろけるような、僕の罪の大きな糧となってくれるよね。ありがとう。

不如帰

ァ、ッア……!

これは僕が責任を持って、最後まで片付けておくよ。
……さよなら。(心臓を握り潰す)

不如帰

……!(絶命)

……あーあ、すごい血。さすがに心臓素手でモロに潰すと、返り血が半端ないね。
はい、返して欲しかったんでしょ?ちゃんと元の場所に、戻しておくね。まあ、もうそれ、壊れちゃって動かないみたいだけど。

ローズ

嵐……。(呆然としている)

強い人ほど、きっと相応の望みを抱いてここにいる。自分の目的を叶えるためにその人の求める光を踏みにじって、僕はより大きな罪を重ねられる──。

ローズ

──嵐!お前は本当に、これでいいのか……!?

何が?

ローズ

嵐がナイフを振るいはじめた時から、わらわはずっと案じていたのだ……!
嵐は血を浴びすぎた。貝の火もまた罪を吸い上げ、もはや限界も近い。
貝の火を我が身に宿す、わらわにはわかるのだ……!なあ、嵐。このままこの茨の道を突き進むのならば、お前は程なくして罰を受ける。途方もない罰だ。
多くの者を傷つけた、重き罰を……。

いいんだよ、ローズ。知ってるでしょ?最初からそのつもりだったんだ。
僕の元では貝の火は、正攻法では育たない。だから父さんが失った光を取り戻せるなら、僕はどんな罰だって受ける。例えこの命と引き換えにしたって構わない。
その覚悟で、ここにいるんだから。

ローズ

……嵐は父親のために、自分の命を投げ打つつもりか。

いっぱいいっぱい人を傷つけたし、殺しもしたんだ。僕一人の命じゃ、足りないかもしれないね。死よりももっと重い罰が、僕を待ち受けているのかもしれない。
でも、覚悟はできてるよ。僕は罰と引き換えに、必ず光を得る。

ローズ

──ユダが言っていた。嵐の大事な人……嵐の父親は、それで本当に喜ぶのか?嵐の行いは本当に、父親のためになるのか?わらわにはとても、そうは思えん。今の嵐を見ていると、ユダの言ったことが正しいように思えてならんのだ。わらわは──、

(被せて)ローズ。僕に逆らうつもり?

ローズ

!!

わかってるよね。僕は貝の火に主と認められた。ローズを支配するのは僕だ。
その僕に逆らうなんて、許さないよ。

ローズ

嵐……!お前は、本当に……っ!

それでもどうしても、ローズが僕のやり方を肯定できないっていうんなら、例え僕一人でも罪を重ねる。ローズと僕が離れていても、僕が罪を犯せば焔は燃え上がるんだから。そう、もうお前なんかいなくったっていいんだよ、ローズ。

ローズ

……っ、わらわには!自らを犠牲にする嵐のやり方を認めることは、できない……!

そっか。どうやら僕らもここまで、みたいだね。そこまで僕に逆らうっていうんなら、お別れだ、ローズ。もう一緒にいたって仕方がないよ。お前は僕のためにその焔を抱いてくれさえいれば、それでいい。ここからは僕一人で、罪を重ねる。

ローズ

嵐……、

父さん。ねえ、もうじき夕飯の支度ができるよ。
あとちょっとだから、待っててね、父さん。

ローズ

嵐……?どこへ行く、嵐!
……!、もうわらわの声さえ、届かないのか。
嵐……我が唯一の、主……。

ローズ(M)

貝の火の意志に従う傀儡に過ぎないわらわは、主に逆らうことを許されていない。だからわらわには、嵐を止めることはできない。だが、わらわは思うのだ。わらわ自身の意志で、嵐を助けたいと。人形が自ら意志を持つなど、おかしなことなのかもしれない。だが、これは確かに貝の火の意志ではない、ローズヒップ・ジンジャーとしてのわらわの意志!
これは、最後の悪足搔きだ。わらわが直接手を下すことが適わぬのなら、わらわの矜持きょうじなどいくら傷つけられてもいい……!奴を頼るほかに道はない!
どうか、間に合ってくれ。嵐、お前のことは必ず、わらわが守るから──。

to be continued.