カルチェラタン

第十四話 透明な少年

企画:Familiar Company
作者:饗庭璃奈子(あいばりなこ)
比率:♂2♀2
時間:約15分

廃百貨店・カルチェラタン。
謎に包まれた〝貝の火〟を巡り、闘技者たちは人知れず、日々カルチェラタンで抗争をする。光を求めて闘い続ける、透明な子供たちの行く末は──。

《これまでのあらすじ》
桜庭嵐、コードネーム・旅人。異端の少年闘技者は、盲目の義父のために闘い続ける。宝珠・貝の火が既に嵐の手の内にあり、光と引き換えに訪れる罰から嵐を救うことはもはや不可能だと知った友人・千景。彼の記憶は過去を彷徨い、嵐との出会いまで遡る。

※Skype上での声劇・ニコニコ生放送などで、ご自由にお使い下さい。
※企画などでご使用になる場合は、まずはご連絡下さい。

君島千景きみしま ちかげ
コードネーム:ユダ。カルチェラタンの闘技者の一人。クラスは違うが嵐の同級生。ナイフ使い。頭がよく、身体能力も高い。嵐に固執し、たびたび奇襲を仕掛ける。飄々としていて掴みどころがない。ボイスドラマの場合、幼少期は女性が演じましょう。演じるべきです。
桜庭 嵐さくらば あらし
コードネーム:旅人。女性演者推奨。カルチェラタンの闘技者の一人で中学三年生。小柄で身体能力も低いが、最強の人形とうたわれるローズの主であり、カルチェラタンで畏怖されている。ナイフ〝スピカ〟を手に入れたことにより、ついに自らも闘う力を得る。
魚住杏梨うおずみあんり
コードネーム:猫娘。カルチェラタンの闘技者の一人で、千景のチーム。嵐の同級生で、千景と同じクラス。身体能力は並だが、射撃において彼女の右に出る者はいない。マイペースで、ローズちゃんにぞっこん。麝香鼠とは犬猿の仲。嵐が好き。
麝香鼠じゃこうねずみ
本名不明。カルチェラタンの闘技者の一人で、千景のチーム。歳は嵐たちよりちょっとだけ上。猪突猛進型で、いわゆる脳筋。馬鹿。とにかく馬鹿。しかし身体能力と動体視力はずば抜けており、肉弾戦ではトップクラスの実力を誇る。猫娘とは犬猿の仲。
イタドリ
廃百貨店・カルチェラタンの守衛。いつも制帽を目深に被り、その顔を見た者は誰もいない。声劇の場合、麝香鼠と被り。
子供
一台詞のみ。千景が通う幼稚園の園児。声劇の場合、魚住と被り。
先生
一台詞のみ。千景が通う幼稚園の先生。声劇の場合、嵐と被り。
闘技者
一台詞のみ。声劇の場合、イタドリ・麝香鼠と被り。
千景

(表題)「カルチェラタン 第十四話 透明な少年」

千景(M)

俺は、透明な子供だった。いつだって俯いて、目の辺りはいつも腫れていて、俺の世界はとてもとても狭かった。俺はあまりに幼くて、考えることさえとうにやめていた。

《幼少期の回想。千景(M)は現在の千景で》

子供

せんせい、さようならー!

先生

はーい、また明日ねー!

千景(M)

幼稚園には、父兄が迎えに来ることになっている。
母の迎えはいつも遅かった。俺はいつも、最後の一人になるまで、下駄箱の脇で膝を抱えて待っていた。時にはいつまで待っても、母が迎えに来ないこともあった。そんな時は幼稚園の先生が、必死に俺をなだめすかしながら、どうにか家まで送ってくれた。

きみ、どうしたの?

千景(M)

そんな俺に、ある日声をかけてきたのが、きみだった。

ひとり?おかあさん、まだむかえにこないの?

千景

……いつものことだから。

……、目がはれてる。

千景

これは、ぼくがわるい子だから……おかあさんが、ぼくをぶつから……。

……。

魚住

おーいあらし!そんなところでなにやってんの?はやくおそとであそぼうよー!

あっ、あんりちゃん。この子……。

魚住

え?、あ……。

おかあさん、まだむかえにこないんだって。

魚住

へえー、そうなの?おそいね。……あれ?目、どうしたの?

おかあさんにぶたれたって……。

魚住

はぁ!?ぶたれたぁ!?あんた、そんなになるまでぶたれるっていったいなにしたのよ!?

ちょ……!あ、あんりちゃん!

魚住

まあ、なんにせよ、あんたのママはちょっとやりすぎね。だいじょうぶなの?

千景

……ちょっとまえが、みづらいだけだから。

魚住・嵐

(目を合わせて)……。

……ねえ。ぼく、さくらばあらしっていうんだ。きみ、なまえは?

千景

え?なまえ?ぼくの……?

うん。きみのなまえ。

千景

……きみしまちかげ。

ちかげくん。よかったら、おかあさんがむかえにくるまで、ぼくらといっしょにあそばない?ぼくのおとうさんとあんりちゃんのおかあさんがいっしょだから、おそくまであそんでてもせんせいにしかられたりしないよ。

千景

え……、

魚住

あ、それいいね!めーあんだよ、さっすがあらし!

あはは……、ありがと、あんりちゃん。

魚住

ちかげ、いっしょにあそぼうよ!あたしはうおずみあんりっていうんだ!

千景

でも……、

魚住

おとこならうだうだいってないで、さっさとしなさいよね!ほら、いくわよ!
(一人で園庭に駆け出していく)

千景

え、ぁ……、

ほら、いこ?ちかげくん。(笑顔で手を差し出す)

千景

……うん。(嵐の手を取る)

千景(M)

差し出されたきみの手を取ればあたたかくて、曇りのない笑顔が眩しくて、俺は思ったんだ。ああ、透明だった俺は、ようやく彼に、見つけて貰えたんだって。

千景

……あの、

ん?

千景

ぼくなんかがいっしょで、ほんとうにいいの?

なにいってるの、あたりまえでしょ。ぼくがちかげくんをさそったんだから。ほら、はやくいかないと、あんりちゃんにしかられちゃうよ。

魚住

あらしー!ちかげー!はやくしなさいよー!

うん、いまいくー!もう、あんりちゃんってば、ほんとたんきなんだから……。

千景

……ぁ、あのっ!

へ?

千景

……っ、その……ありがとう。えっと……あらしくん。

!、……うん!

《幼少期の回想ここまで》

千景(M)

見つけて貰える子供になった俺は、もう透明なんかじゃないんだって気づいたのは、もっとあとになってからだけど──でもだから、俺にとって嵐くんが特別な友達になるのは、必然だったんだと思う。そう、嵐くんが俺の、世界で一番大事な人だ。嵐くんは俺を、透明な世界から掬い上げてくれたから。

それから俺たち三人は、小学校も中学も一緒の、幼馴染みの腐れ縁になった。おまけに中二の時までは、三人ずっとクラスも一緒。俺にとって嵐くんと魚住ちゃんは、生まれてはじめてできた、そして今でも唯一の、気の置けない友達。だけど、中三になって嵐くんだけクラスが離れちゃって、俺たちは暫くのあいだ、ちょっとだけ疎遠になっていた。
嵐くんの様子が、どこか変わったことにも気づけないほどに。

あいつが俺の前に現れたのは、そんな時分のことだったんだ。その日はたまたま魚住ちゃんが用事があるからって先に帰って、なんとなく図書室で本を読み漁ってたら珍しく遅い時間になってしまった、黄昏時の帰り道。薄暗闇から一人の男が現れて、俺の前に立ち塞がった。

イタドリ

君島千景きみしまちかげくん、だね。

千景

!!、……おじさん、誰?

イタドリ

きみの一番大事な人が、破滅へ向かおうとしている。

千景

は?

イタドリ

早くしないと、手遅れになるよ。

千景

……宗教か何か?悪いけど俺、そういうの興味ないんで。それじゃ、

イタドリ

透明だったきみを、彼は見つけてくれたね。

千景

……っ!?

イタドリ

幼い頃から虐待を受けて育ったきみは、自分は世界に必要のない存在だと思っていた。透明な子供だったんだ、実に可哀想なことにね。同情に値するよ。
だけど、幼い彼はきみを見つけて、透明な世界から掬い上げてくれた。きみときみの世界に色を与えてくれた彼こそが、きみの世界で一番大事な人だ。違うかい?

千景

……嵐くんのことを言ってるの。

イタドリ

そうそう、出会った時には元気のいい女の子もいたね。彼と彼女ときみ、三人ずっと一緒だった。だけど今は諸事情で、彼とはちょっと疎遠気味。
僕が誰のことを言っているのか、きみが一番、よくわかっているはずだけど?

千景

へえ……俺らのこと、随分よく知ってるんだね。あんた、嵐くんの何?

イタドリ

そんなこと、今はどうでもいいじゃないか。僕はきみの大事な人の危機を、純粋なる慈善心からきみに伝えにきただけなんだから。

千景

!、……嵐くんに、何かあったのか。

イタドリ

ちょっとね。このままだと、まずいことになる。……聞く気はあるかい?

千景

あんたは怪し過ぎだし信用ならないけど、俺らのことを正確に把握してたのも事実だ。これが嵐くんのためになるっていうんなら、一応、聞いとくよ。

イタドリ

友人たるもの、そう言って貰わなくてはね。

千景

いーからさっさと話してよ、おじさん。

イタドリ

ククッ、急かすねえ。そんなに彼が大事かい?……ま、いいだろう。きみは知るべきだ。知らなくてはならない。彼は今、彼の求める光のために、罪を重ねようとしている。

千景

罪?

イタドリ

端的に言ってしまえば、彼がやろうとしているのは、人を傷つけること、かな。

千景

それって、物理的に?心理的に?

イタドリ

どちらでも。とにかく〝悪いこと〟をすればそれでいいのさ。

千景

ふーん……。光ってのは?

イタドリ

彼の望みが叶うこと。だが、罪を重ね続ければ、彼はいずれ罰を受けることとなる。
願いの成就と引き換えに、彼は我が身を犠牲にするつもりだ。

千景

あっそ。……っあは!

イタドリ

ん?

千景

なーんだ、やっぱりあんたの言ってることって宗教じゃん。
嵐くんの話引っ張り出して、罪とか罰とか願いの成就とかよくわかんないことばっかり並べ立てて、変な宗教に俺を勧誘するつもりでしょ?

イタドリ

(被せて)僕の左目を覗いてごらん。

千景

は?何、いきなり。

イタドリ

さあ。(千景に歩み寄る)

千景

……っ!(後ずさる)

イタドリ

ククッ、人に近づかれるってことに慣れていないんだね。
そんなに警戒しなくても、取って食いやしないよ。

千景

……っ、いちいちうるさいね。わかったよ、あんたの左目、見りゃいいんでしょ?
(覗き込む)!!、え……何、コレ。……っあは、俺は夢か幻でも見てんのかなあ。あんたの左目、奥で何かちらちら燃えてるように見えるんだけど?
しかも、見たこともないくらいすっげー綺麗なやつが。

イタドリ

〝罰のほのお〟──僕はそう呼んでいる。貝の火と同じ種類の焔だ。

千景

……〝貝の火〟?

イタドリ

彼が求めているもの。持ち続けたものに、どんな光をも与えるという。もっとも僕の焔は他のことに力を費やしてしまったから、そんな力はないけどね。

千景

なんだかさっきからやけに非現実的だね。
俺、リアリストだからさあ。

イタドリ

だが、その目で僕の持つ焔を見てしまった以上、きみはその非現実的な事象を受け入れるべきではないのかな?

千景

そうだね。自分の目で見たものは、信じるよ。あんたの言うこと、はなっから否定してかかるような真似はしないことにする。よくわかんないけど、とにかく普通に考えたらあり得ないものが、あんたの左目の中には確かに存在してるわけだし。
ま、あんたって人間を何から何まで全部信用することもしないけどね。

イタドリ

賢い判断だね。

千景

……で?嵐くんが受けることになるその罰って、どれだけのもんなの?

イタドリ

それはこれから彼が重ねる罪次第だが……ま、決して軽いものではないだろうね。何せ引き換えに、どんな光をも得られるんだ。場合によっては、命に関わる。

千景

な……!?

イタドリ

少しは事の重大さをわかってくれたかな?

千景

……っ、嵐くんは自分の命懸けてまで、一体何を……!
!!、……待てよ。光って、まさか……いや、そうだよね、間違いないよ。嵐くんの性格からして、私利私欲のために人を傷つけるなんてどう考えてもあり得ないもんねえ。嵐くんがそこまでして手に入れたい光なんて、一つしかない。

イタドリ

そのまさか、だろうね。

千景

……っ、あの日のこと、まだ自分のせいだって思ってたのかよ、嵐くん……。

イタドリ

ま、今は彼の求める光が何か、なんてことは、大した問題じゃないんだ。僕が訊きたいのは、きみがこの事実を知って、どうしたいかってこと。

千景

どう、したいか?

イタドリ

そう。その答え次第で、僕はきみを導こう。そのために、僕はここに来たのだから。

千景

……嵐くんを、助けたい。嵐くんは、俺を見つけてくれた。透明な世界から掬い上げてくれた。俺の、世界で一番大事な人だ。それに嵐くんに〝おじさんから貰ったもの、返していけばいい〟って言ったのは俺だから。だったら俺も、返さなきゃ。

イタドリ

それがきみの答えってことで、いいのかな?

千景

……嵐くんを助ける方法はあるの。

イタドリ

あくまでも助けられる可能性、だね。それにきみも少々、危険な目に遭うことにはなる。

千景

構わないよ。嵐くんのためなら、俺も命懸けるくらいの覚悟はできてる。

イタドリ

そうか。きみならいい闘技者になれるかもしれないね。では案内しよう。彼がその身を置く、罪と罰に支配された美しくも醜い戦場、カルチェラタンへ。

千景

カルチェラタン?俺らが生まれる少し前に廃業したっていう、百貨店の名前……?

イタドリ

きみも一歩足を踏み入れれば、そこがどういう場所だかわかるさ。
さあ、ついておいで。何、ここからそう遠くはないんだ。それに、どうせきみのご両親は、きみの帰りが多少遅くなったところで、気にしやしないだろうしね。

千景

……あんた、名前は。

イタドリ

ああ、ごめんごめん。話に夢中で、名乗るのがすっかり遅れてしまった。
僕はイタドリ。もっとも、正確に言えばこれは偽名なんだけどね。本当の名前は、随分前に捨てたんだ。いわば、僕の通り名ってところかな。
呼び名がないと、何かと不便だから。

千景

イタドリさん。あんたについていけば、本当に嵐くんを助けられる可能性があるんだね?

イタドリ

それはこれからのきみの行動次第だ。僕はきみに助言はできるが、彼を助けるのはきみであって、僕じゃない。……ククッ、怖じ気づいたかい?

千景

まさか。俺はどんな手を使っても、嵐くんを助けるよ。

イタドリ

迷いはないんだね。素敵だ。

千景

さあ、連れてってよ、イタドリさん。俺をその、カルチェラタンとやらに。

千景(M)

こうして俺は、嵐くんを裏切った。俺の目的は、嵐くんの手に貝の火を渡らせないこと。可能であれば俺が貝の火を手に入れて、この世からその存在を消し去ること。
どんな理由があれ、嵐くんの事情を一番知ってる俺が、その願いの成就を阻むんだ。裏切ったことに変わりはない。だけど俺は、例え嵐くんに嫌われても憎まれても、嵐くんを助けたい。絶対に、助けてみせる。その、つもりだった。
だけど気がついた時には、どうしようもないくらいに手遅れで──。

***

麝香鼠

……どうすんだよ、これから。

猫娘

ネズミ……今はまだ、

麝香鼠

(被せて)お前は少し黙ってろ。

猫娘

……っ、

麝香鼠

貝の火は旅人の手の内にあるってことがわかっちまった。
しかも貝の火は旅人をあるじと認めてて、奪い取ることも不可能。どうやら光はもう目前ってところまで来てる。打つ手なし、じゃねえかよ。

千景

……俺はまだ諦めない。

猫娘

千景……でも嵐は、

千景

(被せて)まだだ。まだ一つだけ、俺の望みを叶える方法がある。

麝香鼠

どうするつもりだよ。

千景

嵐くんに気づかせるんだ。おじさんはこんなこと望まない。こんなことして光を得ても、おじさんを悲しませるだけだって。気づかせて、これ以上罪を重ねることを思い留まらせる。嵐くん自身の意志を鈍らせれば、まだ嵐くんと貝の火を引き剥がすことができるかもしれない。

猫娘

そんなこと、どうやって……?嵐はもうすっかり、自分が罰を受けることと引き換えに、光を得るつもりでいるんだよ?そんな強い意志を、本当に鈍らせることができると思う?

麝香鼠

悪いが俺もネコと同意見だ。詳しいことは知らねえが、今の旅人の意志をそう簡単に鈍らせることができるとは俺にはとても思えねえ。そんな方法、あんのかよ。

千景

……っ、

千景(M)

考えろ、考えるんだ……!もう時間はない。嵐くんに考えを改めさせるには、どうしたらいいか。嵐くんに気づかせるために、俺は何をするべきか……!

***

闘技者

ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあっ!!!!……ぁ……、(息絶える)

……これで、二人目。

嵐(M)

簡単だ。僕は簡単に、人を殺せる。重い重い罪を、重ねられる。
光はもう──すぐそこだ。

to be continued.