カルチェラタン

第十話 迷い猫は永遠に恋をする

企画:Familiar Company
作者:饗庭璃奈子(あいばりなこ)
比率:♂0♀2
時間:約20分

廃百貨店・カルチェラタン。
謎に包まれた〝貝の火〟を巡り、闘技者たちは人知れず、日々カルチェラタンで抗争をする。光を求めて闘い続ける、透明な子供たちの行く末は──。

《これまでのあらすじ》
桜庭嵐、コードネーム・旅人。異端の少年闘技者にして、誰も知らない貝の火の主。父親のため、彼は闘い続ける。敵対するチームの千景と猫娘。三人はかつて、親しい幼馴染だった。その、はずだった。ある日、猫娘──本名・魚住杏梨が、嵐の元を訪ねてくる。

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桜庭 嵐さくらば あらし
コードネーム:旅人。女性演者推奨。カルチェラタンの闘技者の一人で中学三年生。小柄で身体能力も低いが、最強の人形とうたわれるローズの主であり、カルチェラタンで畏怖されている。ナイフ〝スピカ〟を手に入れたことにより、ついに自らも闘う力を得る。
魚住杏梨うおずみあんり
コードネーム:猫娘。カルチェラタンの闘技者の一人で、千景のチーム。嵐の同級生で千景と同じクラス。身体能力は並だが、射撃において彼女の右に出る者はいない。マイペースで、ローズちゃんが大好き。麝香鼠とは犬猿の仲。背が低いのを気にしている。無論、貧乳である。
嵐(M)

魚住うおずみが僕と二人だけで話がしたいと言うので、ローズは夜風にでも当たってくると、テナントを出ていった。僕と魚住が同級生だってことは、ローズも知ってる。そして、〝猫娘〟じゃなく〝魚住〟である時の彼女には、ローズも手は出さない。僕と魚住は二人、日が落ちて薄暗くなったテナントに、肩を並べて腰を下ろした。

(表題)「カルチェラタン 第十話 迷い猫は永遠とわに恋をする」

魚住

こうしてお話するの、本当に久しぶり。

うん、そうだね。学校でも、最近は話すことないから。

魚住

クラス、別々になっちゃったしね。

千景ちかげくんとは、学校でも話すの?

魚住

しょっちゅうね。千景ってさ、一見近寄り難い雰囲気あるでしょ?あの摑みどころのなさに加えて、先生や不良にも物怖じしない態度。それに口もやたらと立つから、クラスで未だに怖がられてんのよ。あいつとまともに会話できんのは、一・二年の頃から嵐やあたしづてに交流あった奴くらい。ま、当の本人はそんなことぜんっぜん気にしてないみたいで、誰にでも平気で絡みにいくんだけどね。もうみんなビビっちゃってさ。

千景くんらしいね。

魚住

昔っから変わんないのよ、あいつ。
……千景の両親がさ、ああいう人たちでしょ?だから人ってものを、きっと今でも心のどこかで警戒してて、それを隠すためにあんなふうに飄々と、摑みどころなく振る舞ってる。あいつなりに、周りの人とうまくやってこうって努力はしてるんだと思うよ。
なんかさ、ほっとけないよね。カルチェラタンにも、大抵は一緒に来るんだ。

そっか。……あはは、なんだか僕ら、おかしな関係になっちゃったよね。

魚住

うん。もう、ただの幼馴染みじゃない。

……!

◆沈黙。

よく考えたら、魚住がここに来てからこうして二人だけでゆっくり話すのも、はじめてだよね。魚住が僕らのテナントに来る時って、ほとんど千景くんと麝香鼠さんが一緒だし、機会がなかったっていうか。毎日のように顔合わせてるから、あんまり実感ないけどさ。

魚住

そういえば、そうだね。

はじめて魚住とここで鉢合わせた時はさ、本当に驚いたよ。しかもよりにもよって、千景くんのチームにいるし。一体どうやって、ここのことを知ったの?

魚住

あたしと千景さ、クラスも一緒だし家も近いから、毎日一緒に帰ってたんだよね。だけど、ある日突然それがなくなった。〝今日は用事があるから〟ってさ、それが毎日。さすがにおかしいなって思って、あとをつけたの。辿り着いたのが、ここだった。

……好奇心旺盛だもんね、魚住は。

魚住

千景取っ捕まえてさ、問い詰めたの。それでここがどういう場所だか知った。千景がここで毎日闘ってて、嵐もここにいるってこと。だからあたしも、闘技者になった。
千景には、散々止められたんだけどね。三人の中であたし一人だけ仲間外れなんて、嫌だったから。あたしが頑固なの知ってる癖に、千景も馬鹿だよね。

……僕が千景くんだったとしても、きっと魚住を止めたと思うよ。

魚住

じゃあ、嵐は千景と似た者同士のお馬鹿さんだ。あたしは絶対、そんなんじゃ止まらないもん。むしろ、逆境にこそ燃え上がっちゃうタイプ?
やっぱ、類は友を呼んじゃうのかしらね~。

魚住は、昔っからそうだよね。やめろって言うほど、やめないタイプ。

魚住

そ。あたしのそういうところも、昔っから変わってないよ。千景が未だに人を恐れてるのや、嵐が自分のことより人のことばっかりなのと、同じ。

……!、……魚住も、千景くんとおんなじこと言うんだね。

魚住

へ?

こないださ、千景くんと一緒に学校から帰ったよ。

魚住

!!

カルチェラタンの外で千景くんと言葉を交わすなんて、本当に久しぶりだった。自分は裏切り者のユダだから、僕にとっての千景くんはもう友達じゃないかもしれないって、でも千景くんにとっては、僕はずっと友達だとも言ってた。僕は千景くんを、殺そうとしたのにね。

魚住

そんな、こと……、

正直さ、僕自身ももう、僕にとって千景くんや魚住がどういう存在なのか、わからないんだ。そりゃ前は仲のいい幼馴染みで、友達だったよ。でも、今は違う。僕らは貝の火を奪う敵同士で、争い合ってる。それって本当に、友達なのかな。
僕らは本当に、変わってないって言えるのかな……。

魚住

……うん、そうだね。あたしたちみんな、変わらないところもあるけど、何もかも変わってないわけじゃない。あたしも千景も嵐も、ここに来て絶対何かは変わったし、きっと今も変わり続けてる。人って、そういう生き物だもの。常にうつろっていくの。ずっとひとところには、いられないの。ちょっとさみしいけどね。

僕も何か、変わったのかな、ここに来て。……あはは、自分じゃよくわかんないや。

魚住

……。武器、ナイフにしたんだね。千景と同じ。

ああ、うん。ほんとは魚住みたいに、銃にしようかとも考えたんだ。だけどさ、前に千景くんと三人で縁日の射的勝負やった時、僕だけボロ負けだったでしょ?
魚住なんか、全部当てちゃうしさ。

魚住

パパの趣味でアーチェリーやってたからね。的当てだけは得意。

あの時のこと思い出して、飛び道具は無理だなって思ったからさ、これにした。それに同じナイフなら、千景くんと正面切って向かい合えるような気がして。

魚住

千景と……。

うん。やっぱりここでの僕の一番の敵は、千景くんだからさ。千景くんを他の人たちみたいに徹底的に潰しちゃうようなこと、僕にはどうしてもできないから。……友達、だったんだ。だからこれから先も、きっと何度でも闘うんだと思う。

魚住

……。さっきのさ、うちのお隣さんとの闘技、見てたんだよ。
ほっぺた、怪我したんだね。大丈夫?

ああ、こんなの大したことないよ。かすり傷だし。

魚住

でも、怪我は怪我だよ。

……そうかもしれないね。

魚住

ねえ、嵐……。こんなこと、もうやめよう?ナイフ持つなんて、危ないよ。

え、

魚住

このままじゃ嵐、いつか大怪我しちゃうかもしれない……死んじゃうかもしれない。貝の火探してるのだってさ、お父さんの目のことがあるからでしょ?見てればわかるよ。貝の火の光で、お父さんの目を元に戻すつもりなんだよね。
でも、嵐が毎日こんな危ないことして、人を傷つけてまで得たものだって知ったら、お父さん、目が見えるようになっても、きっと喜ばないと思う……。

……。

魚住

さっきね、返り血浴びて真っ赤に染まってるのに平然と笑ってる嵐……ホントのこと言うと、怖かった。なんだかあたしの知ってる嵐じゃないみたいで。このままじゃ、嵐がどんどん変わっていっちゃうような気がして、怖いの。あたしの知らないどこか遠いところに、行っちゃいそうな気がして……。こんなの我が儘だってわかってる。でもあたしは嵐には、人のことばっかりの、優しいままの嵐でいてほしい……!これ以上、変わってほしくないの!

……裏切り者のユダ、か。

魚住

え?

千景くんにもさ、見透かされてたよ。僕が貝の火の光を求めている理由。

魚住

ぁ……。

地下闘技場での決闘の時にさ、言われたんだ。〝きみがきみの大事な人のために人殺しになっちゃったことを知ったら、大事に思われてるその人は、一体どんな思いをするだろうね〟って。あれ、きっと父さんのことを言ってたんだと思う。

魚住

……うん。

小さい頃から僕ら三人、ずっと一緒だったんだ。そのくらい、わかっちゃうよね。わかってるから、だから、千景くんは自分のことを〝裏切り者〟って言うんだと思う。僕が父さんのために貝の火の光を求めていることを知ってて、なのに千景くんは僕よりあとにここに現れて、今じゃその貝の火を奪い合ってるんだから。千景くんの行動は、僕らが一緒に過ごしてきた時間への裏切りだって、千景くん自身が、そう考えてるんだと思う。

魚住

……。

でもさ、僕は千景くんのことを裏切り者だとは思ってないよ。
僕と父さんのことを幼馴染みとしてずっとそばで見てきた千景くんは、僕が父さんの目にここまで執着する理由だって嫌ってほど知ってるはずだ。それでもなお、僕から貝の火を取り上げてしまいたいくらい叶えたい何かが、千景くんにもあるってことだもんね。だから僕と千景くんがこうなってしまったのは、仕方のないことなんだと思う。
僕は千景くんを、恨んだりなんかしてないよ。

魚住

……あのね、嵐。今はそういう話をしてるんじゃないんだよ。
あたしは嵐に、武器を手放してほしくて……!

じゃあさ、千景くんのことは止めないの?

魚住

え、

ほっとけないんでしょ?千景くん、危なっかしいもんね。
両親に虐待されて育って、今でも人に怯えてる、可哀想な子供。それを隠すために、誰に対してもあんな横柄な態度しか取れない。どんなことでもさらりとこなしてしまうように見えて、実はとっても不器用な人。……本当に、可哀想だね。

魚住

なっ……、嵐!いくらなんでもそんな言い方ないでしょ!

本当のことでしょ?僕と魚住だってずっと千景くんをそばで見てきたんだから、これが世間から見た現実だってこと、魚住だってわかってるよね。そんな危うい千景くんこそ、魚住は止めるべきだったんじゃないの?なのに、同じチームになって、一緒に闘って。千景くんには加担して、僕のことだけ止めるって、なんか不公平じゃない?

魚住

それは……だって、千景は……、

それに魚住だって、ここに来て武器を手にしたじゃないか。

魚住

!!

魚住だってここで、毎日闘ってる。時には僕を撃つことだってある。魚住も、ここに来て変わったね。もう普通の女の子じゃない。魚住が何のために貝の火を探してるのか知らないけど、そんなきみに僕のことをどうこう言う資格、あるのかな?

魚住

……クスッ。

魚住

馬鹿だね、嵐。

え?

魚住

あたしはさ、貝の火なんかどうでもいいんだ。あたしはただ、嵐が危ないことしてるの止めたくて、やめさせたくて、ここにいるだけなんだから。

……!、どうして、僕なんかのために……、

魚住

ふふーん。女の子はね、好きな人のためなら何だってできるのだよ♪

……!、あはは……魚住のそういうさっぱりしたところ、好きだよ。

魚住

女心がわかってないねえ、嵐?そういう言葉に、女の子はとーってもフクザツな気持ちになるの、だっ!(嵐にデコピン)

てッ!……何もデコピンすることないだろ!?
魚住のデコピン、痛いし!

魚住

あたしのスキを踏みにじったお仕置きですぅー。

……!、あははっ。こうしてるとほんとに、変わらないよね、僕ら。ごく普通の幼馴染みだったあの頃に、戻っちゃったみたいだ。

魚住

うん。

でも、ほんとのところはそうじゃない。僕は貝の火の光を目指してて、魚住はそれを止めようとする。だったら僕らはやっぱり、闘わなくちゃならないんだ。
目的をたがえる、敵同士なんだから。

魚住

……そうだね。諦めないよ、あたし。絶対に、こんなことやめさせる。

負けないよ。僕は絶対、貝の火の光を手に入れる。

◆魚住、立ち上がって嵐の方に向き直る。

魚住

……嵐!あたしは嵐を止めるためなら、なんだってするから。
例え嵐を傷つけたって、止めるよ。

やれるもんならやってみなよ。いつでも、かかっておいで。千景くんと一緒にね。

魚住

うん。……またね、嵐。次会うときは、敵同士だよ。

うん、またね。……さよなら、魚住。

魚住

!!、……さよなら、嵐。

◆魚住、去る。

嵐(M)

きっと魚住杏梨うおずみあんりという一人の女の子は、もうここには来ないだろう。そんな漠然とした確信が、僕の中にあった。ただ一つだけ、はっきりしたことがある。それは、僕たちが決して相容れない、敵同士だってこと。もう、戻れない。戻るつもりもない。例え世界中を敵に回したって、僕は父さんのためなら、罪を重ねるんだ。
だって父さんだけが僕の生きる理由、僕の全てなんだから。

魚住

ねえ、嵐。千景が自分のこと裏切り者だっていうんなら、あたしだって裏切り者だね。だって、あたしと千景は一緒、だから。……ほっとけないよ、二人とも。あたしの大事な人だもん。だからね、嵐。あたしはあなたに嫌われても、憎まれても、あなたを止める。カルチェラタンにはじめて足を踏み入れた時に、そう決めたの。
知ってるでしょ?あたし、すっごく頑固なんだから。この恋も命も、全部、懸けるよ。あなたのことは、あたしが守る。茨の道なんて、歩ませない。

***

《幼稚園の頃の回想》

魚住

あらしあらしー!ねえねえきいてきいて!

あんりちゃん?どうしたの?

魚住

すっごくいいことおもいついちゃったの!うーんとねー、そうだなあ。
あらしはしょうらいのゆめとかってある?

え?うーん、いまはとくにないかなあ……。あんりちゃんはあるの?

魚住

うん、いまきめたの!すっごくすっごくすてきなゆめだよ!あのね、あたしのしょうらいのゆめはねー、あらしのおよめさん!

え!?ちょ……!あんりちゃん!?

魚住

えへへー、びっくりした?

だ……だめだよあんりちゃん!えーっと、その……ぼくもあんりちゃんのことはすきだけど、ぼくらようちえんだってあるし、けっこんとかそういうのはまだ……!

魚住

だーめ!もうきめたの!あたし、すっごくがんこなんだから!

……あ、あはは。あんりちゃんはすごいね……。け、けっこんか……ぼくとあんりちゃんがけっこん……けっこん!?……ウーン……。(目を回して倒れる)

魚住

え!?あ、あらし!?目ぇまわしちゃってる……!しっかりして、あらし!
あらしーーーーー!(フェードアウト)

***

魚住(M)

誰にでも優しいところ、困ったように笑う顔。あたしはあなたをいつも困らせて、あなたはあたしをいつも助けてくれたね。小さい頃からお転婆で、その癖どうしようもない泣き虫で、よく転んでは泣いてたあたしに、いつも手を差し伸べてくれたのはあなただった。そんなあなたを好きになるのは、きっと必然だったんだ。
だから──、さよなら。ずっと、大好きだった人。

to be continued.