カルチェラタン

第九話 放たれし獣

企画:Familiar Company
作者:饗庭璃奈子(あいばりなこ)
比率:♂2♀3
時間:約25分

廃百貨店・カルチェラタン。
謎に包まれた〝貝の火〟を巡り、闘技者たちは人知れず、日々カルチェラタンで抗争をする。光を求めて闘い続ける、透明な子供たちの行く末は──。

《これまでのあらすじ》
桜庭嵐、コードネーム・旅人。戦略と生き人形、ナイフ・スピカを武器とする異端の少年闘技者にして、誰も知らない貝の火の主。父親のため、彼は闘い続ける。自らは闘技を仕掛けることのなかった嵐も、貝の火の光に向けてついに行動を起こしはじめる。

※Skype上での声劇・ニコニコ生放送などで、ご自由にお使い下さい。
※企画などでご使用になる場合は、まずはご連絡下さい。

桜庭 嵐さくらば あらし
コードネーム:旅人。女性演者推奨。カルチェラタンの闘技者の一人で中学三年生。小柄で身体能力も低いが、最強の人形とうたわれるローズの主であり、カルチェラタンで畏怖されている。ナイフ〝スピカ〟を手に入れたことにより、ついに自らも闘う力を得る。
ローズヒップ・ジンジャー
まるで本物の人間のように精巧に作られており、自分の意思で喋り、動きもするが、人形である。嵐を主として付き従い、なんだかんだで嵐のことを慕っている。容姿は幼いが戦闘に特化しており、最強の人形とうたわれる。わりといつもむすっとしている。
君島千景きみしま ちかげ
コードネーム:ユダ。カルチェラタンの闘技者の一人。クラスは違うが嵐の同級生。ナイフ使い。頭がよく、身体能力も高い。嵐に固執し、たびたび奇襲を仕掛ける。飄々としていて掴みどころがなく、その行動原理は仲間ですら理解できないことも多いようだ。
猫娘
本名不明。カルチェラタンの闘技者の一人で、千景のチーム。嵐と同じくらいの年頃。身体能力は並だが、射撃において彼女の右に出る者はいない。マイペースで、ローズちゃんが大好き。麝香鼠とは犬猿の仲。背が低いのを気にしている。無論、貧乳である。
麝香鼠じゃこうねずみ
本名不明。カルチェラタンの闘技者の一人で、千景のチーム。歳は嵐たちよりちょっとだけ上。猪突猛進型で、いわゆる脳筋。馬鹿。とにかく馬鹿。しかし身体能力と動体視力はずば抜けており、肉弾戦ではトップクラスの実力を誇る。猫娘とは犬猿の仲。
えんじゅ
カルチェラタンの闘技者の一人で、千景の隣のテナント。チャラい男性。肉体派。声劇の場合は千景と被り推奨。
歌鶇うたつぐみ
カルチェラタンの闘技者の一人で、千景の隣のテナント。真面目な男性。ナイフ使い。声劇の場合は麝香鼠と被り推奨。
花薄荷はなはっか
カルチェラタンの闘技者の一人で、千景の隣のテナント。クール系の女性。狙撃手。声劇の場合は猫娘と被り推奨。

えーっと……お邪魔しまーす。

なっ……!?、お前は、旅人……!?

歌鶇・花薄荷

!?

あはは、やだなあ。そんな揃いも揃って化け物見たような顔しないでよ。つかぬことをお訊きしますけど、ここのチームのリーダーのえんじゅさんって、いるかな。

……俺だが。

チームの皆さん三人とも、ここに揃ってますよね。
よかった。無駄足にならずに済みそうだ。

歌鶇

……あなたほどの人が、俺らに何の用ですか。

愚問ですね。闘技者が闘技者の元に足を運ぶ理由なんて、一つしかないでしょう?
あなたは……歌鶇うたつぐみさん、ですよね。で、そっちの女の人が花薄荷はなはっかさん。

花薄荷

私たちの情報も把握済み……ってことは、まさか!

ああ、たぶん、そのまさかだと思います。あなた方三人に、闘技を申し込みにきました。受けて立ってくれますよね?リーダーの槐さん。

……、ああ、勿論だよ。

歌鶇

槐、本気か!?

ったりめーだろ!売られた喧嘩は、買わないとな。闘技者の名折れだ。
それに相手は、貝の火に最も近いと言われている旅人……!その旅人サマが、直々に俺らのところに来て下さった。こんなチャンス、みすみす逃す手があるかよ。

花薄荷

槐……。

いい返事を貰えて何よりです。わざわざ八階まで足を運んだ甲斐があったよ。

花薄荷

旅人が自ら動き出したって噂……本当だったのね。ずっと受け身に徹し続けてきたはずのあなたが、今になって急に行動を起こしはじめた。
一体どういう風の吹き回し?

そんなこと、今はどうでもいいじゃないですか、花薄荷さん。
それより早くはじめましょうよ。闘技を。

槐・歌鶇・花薄荷

……!

(表題)「カルチェラタン 第九話 放たれし獣」

お前らは下がってな!ここは俺が出る!旅人サマの腕っ節をその目によく焼き付けとけ!お前らの番が来た時のためにもな……!

歌鶇

槐……!あいつ自ら、人柱ひとばしらになるつもりか!

花薄荷

歌鶇。私とあなたはしっかり見ておきましょう。私たちに勝機があるとすれば、槐の言う通りにするのが最善の策だわ。私たちは旅人の手中をろくに知らないんだから。……まさか私たちみたいな中堅が、あの旅人サマとお手合わせする時がくるなんてね。

歌鶇

……ああ。

ふふっ、いいリーダーなんだね。こっちもやり甲斐があるよ。
わかりました、槐さん。他の二人にはひとまず手は出しません。あなたは確か肉弾戦を得意とする闘技者でしたよね。それじゃあまずは、ローズが相手をします。一人相手に二人がかりっていうのは、あんまり好きじゃないので。
……ローズ。

ローズ

御意。

槐(M)

出たか、人形……!見た目は本当にただのちっちゃい女の子……だけど、なんたって〝最強の人形〟の異名を持つヤロウだ。油断はならねえ。

殺さない程度にね。

ローズ

わかっておる。早速手合わせ願おう、闘技者・槐。

おう、どっからでもかかって来いよ。

ローズ

では……いざ、参るっ!(攻撃)

!!、速い!くっ……!(避ける)

ローズの攻撃を初見でかわすなんて、なかなかやるね、槐さん。
……ローズ、休まず攻め続けろ。

ローズ

無論だ。休む間など与えん。やぁっ!(攻撃)

うわ!(避ける)

ローズ

はっ!(攻撃)

……っ!(避ける)

槐(M)

けるだけなら、ギリでいける……!だが、それだけで精一杯だ!こっちから反撃なんて、とてもじゃないが適ったもんじゃねえ……!

へえ。槐さん、話に聞く通りそこそこやり手みたいだね。
それじゃあそろそろ本気出そっか、ローズ。

ローズ

承知した。悪いがここからは本気でいかせて貰うぞ。……ふっ!(攻撃)

スピードが格段に上がった!?
今までのは本気じゃなかったってのかよ……!?
うぁッ!(掠る)

ローズ

どうした?さすがにわらわの本気はかわしきれぬか?やっ!(攻撃)

ぐっ!(食らう)

ローズ

はぁっ!(攻撃)

ぐあぁっ!(食らう)

うん、もういいよ、ローズ。サクッと終わらせちゃおう。
槐さんの実力は、もう十分わかったから。
──そう、もう十分だ。

ローズ

御意。残念だったな、槐。嵐はもうお前に飽きたようだ。そしてそれはわらわも同じ。だが、その気概だけは認めてやろう。これで、最後!はあぁぁぁぁあっ!(攻撃)

がはぁッ……!……ぅ……!(気絶)

……攻撃力は高いけど、防御が薄いってのも前情報通り。ローズのスピードの前じゃ、血を見るまでもなかったね。ま、槐さんはこんなもんかな。

歌鶇

槐がやられた……!こんなにあっさり……!

花薄荷

あの人形、なんてスピードなの!人間じゃ到底追いつけない速度、小さいながら戦闘に特化した体の造り……!〝最強の人形〟の異名は伊達じゃないってことね。

歌鶇

冷静に解説してる場合か!
次のターゲットは花薄荷、お前みたいだぜ……!

花薄荷

!!

ローズ

覚悟はよいか、娘。

花薄荷

……ええ。私だって伊達にここまで生き残り続けてきたわけじゃないわ。それに、私の武器は銃。槐の身体能力じゃ適わなくても、私なら、勝てるかもしれない。
違うかしら?最強のお人形さん。

ローズ

ふっ、その通り。並の闘技者では肉弾戦においてわらわの足元にも及ばん。だが、武器を持つ者ならば、わらわと対等に闘える可能性が僅かながら残されている。いい着眼点だ。お前がこのチームの頭脳といったところか。では、行くぞ!はぁっ!(攻撃)

花薄荷

うっ!(掠る)やっぱり速いっ……この……っ!(発砲)

ローズ

なんだ?遅い弾だな。お前の狙いはわらわの速度にまるでついてこれていない。ユダの配下の猫娘の弾と比べれば、赤子のようなものよ。ふっ!(攻撃)

花薄荷

え、……きゃあっ!(食らって、倒れる)

歌鶇

花薄荷!

そっちに気を取られてる場合かな?歌鶇さん。

歌鶇

!!、旅人……。

知ってると思うけど、僕ももう闘う力を持ってるんです。

歌鶇

……ええ、聞きましたよ。隣のテナントのユダを、闘技場で殺そうとしたってね。

聞けば歌鶇さん。あなたの武器も、ナイフだそうですね。千景くんと真っ向勝負でやり合う前に、一度ナイフ使いの方とお手合わせしてみたかったんですよ。あの決闘の時は僕も我を失ってて、真っ当な勝負とはとても言えませんでしたから。
実をいうとあなた方に闘技を申し込んだのも、一番はこれが目的で。おまけにあなた方のチームは、その編成も千景くんのところと酷似している。

歌鶇

……へえ、それで?一体何が言いたいんです?

僕のモルモットになって下さい。歌鶇さん。

歌鶇

……!、……ナイフ使いの端くれとして、受けて立ちますよ……!もっとも、あなたのモルモットで終わる気は、俺だって更々ありませんけどね!

《ローズ VS 花薄荷》

ローズ

どうした、娘?お前の弾はわらわに掠りもしていないぞ?

花薄荷

くっ……!(発砲)

ローズ

何度やっても同じことだ。

花薄荷(M)

当たらない……!相手の動きが速すぎるんだわ!自分でもはっきりとわかる、今の私の狙いはこれっぽっちも彼女に通用していないってこと!このままじゃ……!

ローズ

打つ手なし、か?ならばそろそろこちらから行かせて貰うぞ。

花薄荷

……っ!

◆千景・猫娘・麝香鼠、隣のテナントから観戦している。

千景

おー、やってるねえ。嵐くんとお人形さん。

麝香鼠

しかし旅人の奴がこんなところまで出向いてくるなんて、珍しいな。
今までのあいつは自分のところに攻めてくる闘技者を迎え撃ってただけで、自分から積極的に攻めてくことなんてなかっただろ?

千景

最近はそうでもないみたいよー?ほら、こないだ遊びに行った時、嵐くんもお人形さんもテナントにいなかったじゃん?なんかさ、中堅以上のチームんところに出向いては、片っ端から潰して回ってるみたい。ご近所さんや交流のある闘技者には手を出してないのが、嵐くんらしいけどね。ま、お隣さん程度のチームなら、嵐くんの圧勝でしょ。

猫娘

……なんかさ、旅人くん、最近変わったよね。目つきが違うっていうか。

千景

自ら武器を持っちゃったら、誰しも多少はねえ。まあ嵐くんの場合、ちょっと度が過ぎてるような気はするけど。こないだなんかさ、ナイフが自分の体の一部になっちゃったみたいだとか言ってたよ。すごく軽いんだってさ、武器が。

猫娘

武器が、軽い……。

《嵐 VS 歌鶇》

悪いけどっ、僕ナイフも闘うのも初心者だから、さっ!手加減とかそういうの、一切できないんだよねっ……!(競り合いながら)

歌鶇

舐められたもんです、ねっ!手加減なんか、いりませんよっ!(競り合いながら)

あははっ、そうだよねっ……!歌鶫さん、あなたには槐さんみたいな統率力はないけど、このチームで一番強いって、聞いたっ!んっ!(攻撃)

歌鶇

そいつはどうもっ!(避ける)

うまく避けたね……!
虫も殺せなさそうな顔して、決して自分の力を振りかざすような真似はしない堅実な実力派!そんな人とナイフを交えられるなんてっ、光栄だよっ!(再び攻め込む)

歌鶇

ははっ……!虫も殺せなさそうな顔して恐ろしい力秘めてんのは、俺はあなたの方だと思いますけどねっ……!あなたが時折見せる、まがまがしいまでの〝気迫〟──あれは間違いなく、〝殺意〟ってやつだ!あなたにはその才能があるんですよ……はぁっ!(攻撃)

うわっと、危な!(避ける)あははっ、ひょろいとかおとなしそうとか、よく言われるよっ……!殺意とか気迫とかは、わかんないけどっ!(攻撃)

歌鶇

……っ!(跳び退く)
……驚きましたね。あなたのやいばを振るう手。はじめのうちは誰しも、人の肉を裂く感触が直に伝わるこの武器に抵抗を持つものなのに、あなたのナイフ捌きにはまるで迷いがない。ナイフを持って日が浅いとは、とても思えません。
でも……ふっ!(攻撃)

ッ……!(頬を掠る)

歌鶇

……!、やっぱり小柄なだけあって速いですね。掠っただけ、か。
でも、最初に一撃食らわせたのは俺ですよ、旅人さん!あなたの立ち回りはまだ未熟だ。
……?、旅人さん?どうかしましたか?

……。

《ローズ VS 花薄荷》

花薄荷

いやっ、来ないで……!何をするつもり……!?

ローズ

安心しろ。人間の娘にはあまり血を流させるなと、嵐に申し付けられている。何やらお前たちにとって、体は貴重なものだそうだな。わらわにはよくわからぬが……。
お前も槐と共に、少し意識を失って貰うだけだ。

花薄荷

!、おとなしく、されるがままに、なんてなると思ってるの?……っ!(発砲)

ローズ

だから当たらぬと言っておるだろう。無駄な足掻きはもうよせ。強がるばかりのその口も、そろそろ閉じてはどうだ?賢いお前ならとうにわかっているはずだ。
お前では決して、わらわに勝てぬということ。

花薄荷(M)

こんな至近距離から、ただゆっくり歩いているだけの彼女にも、私の弾はかわされてしまう……!こんな化け物相手に、たった一撃食らわせることさえ、私にはできない……!甘かった……!私は何もできないまま、ここで負ける!ごめんなさい、槐、歌鶇……!
あななたちの思いを、私は無駄にしてしまう……!無力っ……!

ローズ

では、娘。少々痛むが、耐えてくれるな?何、言ったろう?血は流させん。

花薄荷

ッ、いや……!

《嵐 VS 歌鶇》

……、血だ。

歌鶇

そりゃあ血くらい出ますよ、ナイフとナイフでやり合ってるんだから。
それとも顔は傷つけちゃいけなかったですか?

……、あははっ!

歌鶇

!?

そっか、血か……!ナイフとナイフで闘うって、こういうことなんだね……!やらなきゃ、やられるんだ……。それに、刃と刃がぶつかり合うこの音。闘ってるって実感できる、すごく心地がいい……。ありがとう、歌鶇さん。勉強になったよ。

歌鶇

何が……、

やらなきゃやられる。僕が血を流す。だから僕は、あなたをやります。
勿論、殺さない方法でね。

歌鶇

……へえ。手加減はしないんじゃなかったんですか?

ええ、手加減はしません。ていうかさっきも言ったけど、手加減できるほど僕は器用じゃないので。ちょうどよかった。ちょっと試してみたいこと、あったんだよね。

歌鶇

なんだかよくわかんないですけど、やれるもんなら、どうぞ?

そうですか?じゃあ、遠慮なく、試させて貰いますね。
……んっ!(体勢を低くして、構える)

歌鶇(M)

体勢を低くした!?一体何を……!

これなら不意を突けるし、狙いが腕だとあなたの刃に止められちゃうかもしれないからね……!だから、僕が実験台にするのはこっちだ。

◆SE:ザクッ

歌鶇

……は?、……ぅあ……!、ぁっ、あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!!!!

花薄荷

……っ!?、歌鶇!?
……!、ひィっ……!

ローズ

!!、嵐……一体何を、しておる……?

──なーんだ。僕でも、できるんだ。

歌鶇

っあぁぁぁぁぁあ……!ぁあっ……、……ぁ……!

ごめんごめん、びっくりさせちゃった?
前にローズが手刀で鬼灯ほおずきって人の腕を吹っ飛ばしてたからさ、スピカでもそれができるか、知りたかったんだよね。やっぱり星屋さんのナイフの切れ味はすごいや。歌鶇さんの足を骨ごと断つのなんて、僕の腕力でもわけなかったよ。

花薄荷

……ぁ……!、足が、取れてッ……!……血が、たくさんっ……!
……っ、いやあぁぁぁぁあっ!!!!

あー、落ち着いて?花薄荷さん。足や腕の一本や二本取れたくらいじゃそう簡単に死なないから。でも、これで……あなたで最後、みたいだよ。

花薄荷

……!

スピカの切れ味、もっと試してみてもいいんだけどね。さすがに女の人の体をキズモノにしちゃうのは僕もちょっと気が引けるからさ、この辺で終わりにしとこっか。
ローズもそれでいいかな?

ローズ

……わらわはあるじの意向に従うまでだ。

よし、じゃあそういうことで決まり!
それじゃあね、花薄荷さん。僕らはこれでお暇するよ。槐さんは大したことないと思うけど、歌鶇さんは早めに医務室に連れて行ってあげた方がいいかも。
足、まだくっつくかもしれないしさ。
……って、あれ?花薄荷さん?花薄荷さーん。

花薄荷

……。

放心しちゃってる……。女の人にこういうのはちょっとショックが強すぎたのかなあ……?えーっと……こんな時、どうしたらいいんだろ?ローズ。

ローズ

わらわに訊くな。人の娘の心が人形のわらわにわかるはずもあるまい。

あはは、そうだよね……。
うーんと……我に返ったらあとのことよろしくね、花薄荷さん!それじゃ!

ローズ

逃げたな、嵐……。

うー、だってさあ。……あ、歌鶇さんも気ィ失っちゃってる。……クスッ。ありがとうね、歌鶇さん。あなた、モルモットとしては、なかなか優秀だったよ。

ローズ

……。

?、ローズ?黙り込んじゃってどうかした?

ローズ

……いや、何でもない。

そう?ならいいんだけど。それじゃ、テナントに帰ろっか。収穫もあったことだしね。あ、その前にシャワー浴びないと、体中血まみれだ。
ローズより僕の方が血まみれになるなんて、はじめてだね。

ローズ

……そうだな。

ローズはシャワー浴びなくても大丈夫そうだね。僕はちょっとシャワールームに寄ってくから、ローズは先にテナントに戻っててくれる?

ローズ

承知した。

じゃ、またあとで。

嵐(M)

血の生ぬるさには、もう慣れた。相手の四肢の一本や二本切り落とすことも、スピカで十分できるってことがわかった。僕は確実に、強くなってる。殺すことさえしなければ、僕はもういくらでも人を傷つけられる。その事実がどうしようもなく、嬉しかったんだ。だってこれで僕はもっともっと、目的に近づけるんだから。罪を、重ねられるんだから——。

◆嵐・ローズ、去る。

千景

……!、っあは、すっげ……!俺、今ちょっと鳥肌立っちゃったわー……。返り血浴びて真っ赤に染まった姿で、何事もなかったみたいなあの振る舞いと笑顔……。
嵐くん、やっぱりただもんじゃないね。

麝香鼠

一体どんな神経してやがんだ……!あれだけのことしたあとで、あいつ勝ち誇るでもなく自分のやったことにおののくわけでもなく、平然と笑ってやがったぞ!ありえねえ……!

猫娘

旅人くん……。

千景

ていうかお隣さん、ちょっと手ぇ貸してあげないとマジでやばいんじゃない?歌鶇さんはあのままじゃ出血多量で死んじゃうし、花薄荷さんはアレ、どう見たって暫くはまともに動ける状態じゃないでしょ。面倒だけど、まあここはお隣さんのよしみってことでさ。ネズミぃー。お前、歌鶇さん医務室に運んでやって。足も忘れんなよー。

麝香鼠

って、俺が運ぶのかよ!

千景

ネズミは俺より筋力あるんだし、こういう時こそお前の出番でしょー。
槐さんは大したことなさそうだからとりあえず放置でいいとして、問題は花薄荷さんなわけだけど……嵐くんのアレ目の当たりにして、彼女、相当精神的ダメージ食らってるだろうから、まずは女の子が声かけてあげた方がいいかもね。
ネコ、頼める?医務室まで連れてくのは、俺も手伝うからさ。

猫娘

……!、わかった!(花薄荷に駆け寄る)

麝香鼠

んしょ……っと。(歌鶇を抱え上げる)
あーあー、俺まで血まみれだよ。ったく、なーんで旅人の奴の尻拭いを俺たちがしなきゃなんねえんだか。おーい歌鶇、生きてっかー?

猫娘

花薄荷ちゃん……どう、立てる?
歌鶇くんはネズミが医務室連れてくから、安心して。
花薄荷ちゃんも医務室に……、
……!

千景

あー、駄目だねこりゃ。完全に魂も腰も抜けちゃってるよ。
ネコ、肩貸して。俺が反対側支えるから。

猫娘

あ、うん……りょーかい。じゃあ行くよっ、せーのっ!

千景

……よし、何とかいけそうだね。ネズミ、お前は先行っててー。
こっちはちょっと時間かかりそうだから。

麝香鼠

おー。

千景

んじゃ、俺らも行くとしますかー。……ん?ネコ?なんか顔色悪いけど大丈夫?
お前も今の見てダメージ食らっちゃった?

猫娘

……あ、ううん!ちょっとぼーっとしてただけ。大丈夫だよ。

千景

そう?ならいいけど。

猫娘

それより早く花薄荷ちゃん医務室に連れてかないと!急ご、千景ちかげ

千景

ん、そうだね。花薄荷さーん?はい、足動かしてー。そう、その調子その調子ー。
……こりゃ、医務室つく頃には、日が暮れてそうだ。

猫娘

……。(表情が翳る)

***

ふーっ、すっきりした!ただいま、ローズ。

ローズ

戻ったようだな。……嵐、

ん?、……!

猫娘

こんばんは、嵐。お邪魔してるよ。

猫娘——いや、今は魚住うおずみ……かな?

猫娘

せーかい。今日はカルチェラタンの闘技者の猫娘としてじゃなく、嵐の同級生の魚住杏梨うおずみあんりとしてここに来ました。久しぶり、だね?嵐。

嵐(M)

猫娘。本名・魚住杏梨。千景くんと同じクラスの、僕のもう一人の同級生。そして僕たち三人は、かつて親しい幼馴染みだった。その、はずだったんだ。

to be continued.