カルチェラタン

第六話 夢と現

企画:Familiar Company
作者:饗庭璃奈子(あいばりなこ)
比率:♂2♀2
時間:約20分

廃百貨店・カルチェラタン。
謎に包まれた〝貝の火〟を巡り、闘技者たちは人知れず、日々カルチェラタンで抗争をする。光を求めて闘い続ける、透明な子供たちの行く末は──。

《これまでのあらすじ》
桜庭嵐、コードネーム・旅人。自らは武器を持たず、戦略と生き人形だけを武器としてきた彼も、ついにナイフ・スピカを手にした。父親のため、彼は闘い続ける。はじめてナイフで人間、それも馴染みの千景を傷つけてしまった嵐が、導き出した答えとは。

※Skype上での声劇・ニコニコ生放送などで、ご自由にお使い下さい。
※企画などでご使用になる場合は、まずはご連絡下さい。

桜庭 嵐さくらば あらし
コードネーム:旅人。女性演者推奨。カルチェラタンの闘技者の一人で中学三年生。小柄で身体能力も低いが、最強の人形とうたわれるローズの主であり、カルチェラタンで畏怖されている。ナイフ〝スピカ〟を手に入れたことにより、ついに自らも闘う力を得る。
ローズヒップ・ジンジャー
まるで本物の人間のように精巧に作られており、自分の意思で喋り、動きもするが、人形である。嵐を主として付き従い、なんだかんだで嵐のことを慕っている。容姿は幼いが戦闘に特化しており、最強の人形とうたわれる。わりといつもむすっとしている。
君島千景きみしま ちかげ
コードネーム:ユダ。カルチェラタンの闘技者の一人。嵐と同じくらいの年頃。ナイフ使い。頭がよく、身体能力も高い。嵐に固執し、たびたび奇襲を仕掛ける。飄々としていて掴みどころがなく、その行動原理は仲間ですら理解できないことも多いようだ。
妹尾翔太せのおしょうた
嵐のクラスメイトで、隣の席。サッカー部。嵐とは親しい仲で、いいやつ。声劇ならローズと被り、ボイスドラマなら男性演者推奨。
教師
嵐のクラスの担任で、数学教師、サッカー部顧問。嵐の特殊な家庭環境も知っており、彼なりに嵐を気遣うが、的外れ。悪い人ではない。
メリル
モブ。カルチェラタンの闘技者の一人で、リデルとコンビを組む。残念なイケメン。声劇でやる場合は千景と被り推奨。
リデル
モブ。カルチェラタンの闘技者の一人で、メリルとコンビを組む。残念なイケメン。声劇でやる場合は教師と被り推奨。
メリル

ひっ、……ひィッ……!化け物ッ……!

ローズ

失礼な。わらわは化け物などではない、人形だ。少々血にまみれてはおるがな。
……これで、終わり!はあぁぁぁぁぁあっ!(攻撃)

メリル

ぎゃあぁぁぁぁぁぁあっ!!!!!ッぁ……!(気絶)

リデル

!!、メリル!

……あっちはローズが片付けてくれたみたいだ。
ってことは、あなたで最後だね。リデルさん。

リデル

……っ!やめろっ……来るんじゃないっ!

ごめんね。だけどまた来られると面倒だからさ、再起不能にしてあげないと。
……それじゃ、行くよっ!やあぁぁぁぁあっ!(攻撃)

リデル

やめ、あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあっ!!!!!
……っ、くそ……!この僕が、こんな子供と人形にっ……!ぅッ……!(気絶)

はい、おしまい……っと。

ローズ

嵐!大丈夫か?怪我はないか?(嵐に駆け寄る)

うん、僕は大丈夫だよ。これ、ぜーんぶ返り血。リデルさんも気絶してるだけ。そっちは?

ローズ

言われた通り、急所は外しておいた。命に別状はあるまい。

そっか。じゃあ何も問題なしっと。それにしても、他人の血ってなまあったかくて気持ち悪いよね。さっさとシャワーを浴びにいこう、ローズ。

ローズ

どうやら、その方がよさそうだな。

なんかさ、最近効率がいいよね。今まではローズ一人に任せきりだったけど、二人で攻めれば並のチームなんか瞬殺だ。やっぱりスピカを手に入れておいてよかったよ。
まあちょっとお高かったけど、確かに星屋ほしやさんの言う通り、それだけの価値はあったかな。これでまた貝の火の光に、一歩近づけたような気がする。

ローズ

……、なあ、嵐。お前は……、

?、どうしたの?ローズ。

ローズ

……いや、なんでもない。

嵐(M)

ふふっ、変なローズ。さ、僕はシャワーを浴びたらもう帰ろうかな!これ以上長居すると、また父さんを待たせちゃうし。あーあ、明日も学校か。憂鬱だ。

ローズ

学校は、楽しくないのか?

うーん……まあ、楽しくないわけじゃないけど……。ここにいる時間の方が充実してるかな。だって闘えば闘うほど、僕は着実に目的に近づけるんだもの。

ローズ

……。

?、ローズ?足が止まってるよ?早く行こう。

ローズ

……ああ。今行く。

嵐(M)

自らナイフを振るうようになって、僕は確かに感じている。目的に向かって続く道のりを踏み締める、この感触。僕の全てが、満たされていくのを。
この場所は紛れもなく、僕の真実だ。

(表題)「カルチェラタン 第六話 夢とうつつ

教師

──ば……桜庭さくらばぁ!

ん……ぅー……もう朝……?

教師

なーにを寝惚けてるんだ……。ここは学校だぞ!そして今は授業中だ!

あっ……はい!すみませんでした!

教師

(ため息)……最近のお前は居眠りばかりだな。ちょっとたるんでるんじゃないのか?
放課後、少し話があるから職員室に来なさい。

えっ……!

教師

?、なんだ?何か用事でもあるのか。

──いえ……何もありません。

教師

じゃあ放課後、きちんと職員室に来るように。

はい……。

教師

じゃあ次の問題行くぞー!夏目、前に出て問いてみろ。

妹尾

(声をひそめて)嵐、……嵐!

!!、妹尾せのおくん……。

妹尾

とうとう呼び出し食らっちまったな。ここのところお前、授業中居眠りばっかりだったもんなー。しょっちゅう先生に叩き起こされて、俺の方がひやひやしてたわ。

あはは……まあね。

妹尾

……大丈夫か?その……家とか。
親父さんと二人暮らしでいろいろ大変だろ?
飯もお前が作ってるんだっけ。

うん。でも、家のことはもう慣れたよ。ずっと前からだし。

妹尾

でもさ、やっぱりちょっと疲れてるんじゃねえの?最近のお前の寝こけっぷりすげえもん。俺なんかで力になれるかわかんないけどさ、なんかあったらいつでも言えよ。

ありがとう、妹尾くん。

妹尾

そういえば先生に呼び出し食らった時なんかすごく焦ってたけど、ほんとに用事とかねえの?あるならちゃんと話せば、先生だって日を改めてくれると思うけど。
お前んち、事情が特殊なんだしさ。

……いや、ほんとに今日は何もないんだ。ただ、これまであんまり呼び出しなんか食らったことないから、ちょっと慌てちゃっただけ。

妹尾

そうか?ならいいけど……。
確かに嵐が呼び出し食らうなんて、珍しいよな。
お前、成績いいしさ。

あははは……。

教師

桜庭ぁ!今度はお喋りか?妹尾、お前もちゃんと前向いとけ!

嵐・妹尾

!!、はいっ!

教師

まったく……よし夏目、いいぞ。席に戻れ。

妹尾

……わり。

ううん、大丈夫。

嵐(M)

本当のところ、僕が嫌だったのは、呼び出しなんか食らったら、カルチェラタンで過ごす時間が短くなってしまうってこと。隣の席の妹尾くんはいい人だけど、でも、そんなこと正直に言えるはずもなくて──そのことがちょっとだけ、後ろめたかった。

教師

……で、最近の居眠りの件だが。

……すみません。

教師

ほんとにどうしたんだ?成績優秀、素行も特に問題のなかった、桜庭らしくもない。
こないだの中間の成績も、随分落ちてたじゃないか。

……はい。

教師

お前のあんな成績、はじめて見たぞ。あの時はまだ授業もちゃんと受けてたのに、平均点を下回ってる教科がいくつもあった。で、今度は居眠りときたもんだ。まあ誰だって、たまにはうとうとしてしまうこともあるかもしれんが、ここ最近ずっとだぞ?
近頃のお前、やっぱり少しおかしいな。

……すみません。

教師

……。家で何かあったのか?

!!、まさか!家では特に変わったことはありません。

教師

それならいいんだが……。
桜庭の家の事情は、先生もよくわかってるつもりだ。
目の見えないお父さんの介護や、家事も全部一人でこなしながら、学校も休まずちゃんと来てるお前は、本当によく頑張ってると思う。

……はい。

教師

頑張ってるのはわかるが……でも今の桜庭は、明らかに体がついていけてない。
元々そんなに体力がある方でもないだろう?自分でも気づかないうちに、いろんなことが体や心の負担になっているということも十分に考えられる。

……。

教師

何か困ったことがあるなら、いつでも先生に言いなさい。
桜庭は本来なら優秀な生徒だ。お前の本当の力を家庭環境のせいで伸ばしてやれないのは、教師としても惜しい。先生はお前のためならなんでも、協力してやるからな。
何、どんな些細なことでもいいんだ。大船に乗ったつもりでな。

……ありがとうございます。

教師

それで、本当に何も困ってることはないのか?

……。特に、ありません……。

嵐(M)

先生の言葉は、何もかもが的外れだ。僕は父さんとのことで、何も困ってなんかいない。むしろ父さんと過ごす時間は唯一、僕が僕自身であれる時だと言ってもいい。
それに〝なんでも〟なんて、そう易々と口にしていい言葉じゃない。だったら先生は僕のためなら、日々命の応酬をするカルチェラタンの闘技者にだってなってくれるんだろうか。
例えば僕が頼めば、死んでくれるんだろうか──。

◆嵐、鞄を持って校舎を後にし、校門に向かって歩いていく。
 校庭で部活に励む妹尾が、ふと目に止まる。

妹尾

ヘイ夏目、パース!……おっ、嵐ー!大丈夫だったかー!?

あ……うん、大丈夫ー!

妹尾

もう帰るんだろー!?気をつけてなー!

ありがとうー!

教師

こら、妹尾!また桜庭とお喋りか!?部活の時くらいちゃんと集中しなさい!

妹尾

うおっ、すみません!わりー夏目、パス逃しちまった!ボール取ってくるー!

教師

それじゃ桜庭、お父さんによろしくな。

あ、はい……。

妹尾

嵐ー!そんじゃ、また明日なー!

……!、うん!

教師

(校庭の生徒たちに向かって)大会が近いんだ、みんな気を引き締めていくように!

妹尾

よおし、そんじゃ早速、気合を入れて……俺様キーック!

教師

妹尾ォ!真面目にやらんか!

妹尾

おわ、すんませんっ!俺的には真面目っした!超真面目っした!

教師

ったく、お前は……。

妹尾

っへへ……。あ!ボールこっちこっちー!

……。(しばらく校庭を眩しげに見つめているが、やがて俯いて歩き出す)

嵐(M)

最近、学校で過ごす時間が夢のようだ。目に映る全部、僕とは無関係なもののように思える。前はカルチェラタンで起こる出来事の方が夢みたいだったのに、今はもう、どっちが夢だかわからない。ぎらつく刃、飛び交う咆哮、悲鳴と真新しい血の匂い、なまあたたかい温度──ぼんやりと当たり障りなく、できる限り目立たないようにクラスの中に紛れているより、あっちの方がよっぽどリアルだ。僕に生きてるって、感じさせてくれる。

千景

よー、嵐くん。

◆校門脇に千景ちかげが立っている。

!!、千景くん……。

千景

違うクラスだから、もう帰っちゃったかと思った。待っててよかったよ。
ねえ、たまには一緒に帰らない?前みたいに、さ。

……、うん……。

***

千景

いーい天気だね。あの薄暗いカルチェラタンでのことなんて、全部忘れちゃいそうだ。

……千景くん。

千景

んー?

喉のそれさ……平気?

千景

ああ、これ?っあは、全然大したことないよ。たださ、見るからに刃物で切った傷じゃん?バレるといろいろと面倒だから、ガーゼで覆ってるだけ。
何?もしかして嵐くん、心配してくれてるの?

心配っていうか、僕のつけた傷だし……周りには、なんて言ってるの。

千景

そんなの、親と喧嘩したーって言えば、先生もクラスの子も誰も疑わないよ。
で、当の親は、俺がちょっと怪我したくらいじゃこっちの方を見向きもしない。俺が外で喧嘩ばっかりしてるとでも思ってるんじゃないの?いわゆる非行少年ってやつ。
俺、カルチェラタン以外で他人と喧嘩なんかしたことないんだけどなー。
こーんなに、温厚篤実な性格なのに。

うーん……温厚、とはかけ離れてるような気がするんだけど……。
──ご両親とは、相変わらずなんだね。

千景

まあねー。でも、前みたいに殴られたりってことはなくなったよ。俺だっていつまでも、やられっぱなしってわけじゃなかったからさ。カルチェラタンでやってけてるのもある意味あの人たちに鍛えられたおかげだし、感謝すらしてるくらいだ。っあはは!

……千景くんはすごいね。

千景

ん?

どんな逆境にも負けないで、それすら自分の力にしちゃう。千景くんはすごいよ。
僕にはとてもじゃないけど、真似できないや。
僕には、なんにもないから……。

千景

……俺に言わせりゃ、嵐くんのが十分すごいけどね。

え?

千景

折れちゃったかと思った、あの時。俺にナイフを突きつけて、やいばについた血を見た嵐くん、あんまりにも絶望的な顔してたから。人を傷つけるってことの重みに、潰れちゃうんじゃないかって。もうカルチェラタンに来なくなるんじゃないかって思った。
だけど嵐くんは、次の日もちゃんと来たね。

……まあ、ね。

千景

最近、大活躍らしいじゃん?
〝人形使いの旅人〟がついに自ら武器を取って、お人形さんと二人で片っ端から他のチーム潰して回ってるって、今カルチェラタン中の話題を攫ってるよ?
ほんと嵐くんは、話の種に尽きないよね。

……すごく、軽いんだ。

千景

?、軽い?

うん。星屋さんのところではじめてナイフを持たされた時は、あんなに重たく感じたのに、今はそれが空気みたいに軽い。体の一部になっちゃったようにも感じるよ。

千景

……へー。

それに、たくさん闘って勝てば、それだけ目的に近づける。……もしもあの決闘がなかったら、僕は今でもナイフを振るうきっかけを掴めずにいたかもしれない。だから、千景くんには感謝してるんだ。僕はやっと、僕自身が闘うための力を得たんだから。

千景

……ふーん、そっか。

あ!ごめん……、余計なこと話しちゃったね。

千景

別にィ。……なるほどね、俺が嵐くんの闘志に火をつけちゃったってわけか。なーんか面白くないなー。嵐くんが打ちのめされてるところ、もっと見てたかったのに。

あははは……千景くんってドSだよね……。

千景

でも、嵐くんがそんなに自分のこと話すの、はじめて聞いたかも。それはちょっと面白いかな。昔っから人のことばっかりだったから、嵐くんって。

!!、……そんなこと、ないよ。

千景

そんなこと、あると思うんだけど?

違うよ。

千景

何が違うの?

千景くんは僕のことを買い被りすぎだよ。僕はいつだって僕のことしか考えてない。
!! それに、僕は……!僕の存在は、全部……全部。

千景

……?

──あのさ、千景くん。こないだの決闘の時のこと、その……怒ってる?

千景

え、どうして怒るの?嵐くんと俺とは貝の火を奪い合う敵同士なんだから、あれくらい当然でしょ。……ククッ、あの時の嵐くん、カッコよかったなあ。「ローズに手を出すな」って、おとなしそうな顔して意外と男らしいとこあるじゃん。そんなにあの子が大事?

そんなこと、今はどうでもいいんだよ!

千景

嵐くん?

どうして、千景くんは……!まだ僕に、話しかけてくれるの?

千景

んー……そりゃ、カルチェラタンでの嵐くんと俺は敵同士だよ?でも、学校での俺らはただの同級生で、それに嵐くんは俺の大事な〝友達〟だ。

……っ、

千景

んー、でもまあ、俺は嵐くんを裏切っちゃったからねー。 確かに嵐くんにとって、俺はもう友達じゃないのかもしれないね。 それは俺にはわかんないや、っあははは!

……僕がきみを傷つけても、きみにとって僕はまだ友達なんだね。

千景

うん、友達だよ?これからもずっと、ずっとね。っあはは!
嵐くん!俺は諦めないよ、貝の火。カルチェラタンのどこかに隠された、持ち続けた者に光をもたらすっていうアレさ、必ず手に入れてみせるから。
だから嵐くんも、全力でかかってきなよ。

……、千景くんは貝の火に、どんな光を願うつもりなの。

千景

そんなの、嵐くんには関係ないでしょ?

……そうだったね。カルチェラタンでの僕らは、敵同士だ。

千景

そーゆーこと。忘れないでね?俺が裏切り者のユダだってこと。そんじゃ、俺は家、すぐそこだからさ、一回荷物置いてからそっち行くよ。またカルチェラタンでね、嵐くん。

うん、また……ね。

◆千景、去る。千景の姿が見えなくなると、嵐の表情に冷徹な影が落ちる。

……裏切り者のユダ、か。でも、本当に裏切ってるのはどっちなんだろうね。千景くん。

◆カルチェラタンに向かって歩き出す。

嵐(M)

そう、千景くんはまだ知らない。
きみの求める貝の火が、はじめから僕の手の内にあることを。
本当の裏切り者は——たぶん、僕だ。

to be continued.