カルチェラタン

第四話 星屋の長い一日

企画:Familiar Company
作者:饗庭璃奈子(あいばりなこ)
比率:♂1♀1
時間:約25分

廃百貨店・カルチェラタン。
謎に包まれた〝貝の火〟を巡り、闘技者たちは人知れず、日々カルチェラタンで抗争をする。光を求めて闘い続ける、透明な子供たちの行く末は──。

《これまでのあらすじ》
桜庭嵐、コードネーム・旅人。自らは武器を持たず、戦略と生き人形ローズヒップ・ジンジャーだけを武器とする異端の少年闘技者。父親のため、彼は闘い続ける。青葉木菟との闘技ではじめて圧倒的な敗北を体験した嵐が、足を運んだ先とは。

※Skype上での声劇・ニコニコ生放送などで、ご自由にお使い下さい。
※企画などでご使用になる場合は、まずはご連絡下さい。

桜庭 嵐さくらば あらし
コードネーム:旅人。女性演者推奨。カルチェラタンの闘技者の一人で中学三年生。小柄で身体能力も低いが、最強の人形とうたわれるローズの主であり、カルチェラタンで畏怖されている。彼自身は武器を持たず、戦略と人形だけで抗争に勝利し続けていたが……?
星屋ほしや
カルチェラタンの技術者で、ナイフ職人。無精髭にニット帽、サングラスがトレードマークのおっさんで変人。技術者としての腕は確か。
闘技者
モブ。カルチェラタンの闘技者の一人で、嵐とは気さくに声をかけ合うくらいの仲。声劇でやる場合は星屋と被り推奨。

確かここが、星屋ほしやさんの部屋……だよね。ドアノブにかかった札も、ちゃんと〝OPEN〟になってるし……うん、大丈夫だ。……。(生唾を飲む)

嵐(M)

この部屋に入るのには、ちょっと勇気がいる。
〝星屋〟、すなわち星を売る人──なんていうと、なんだかロマンチックな感じがするけど、その実態は名前の美しさとはかけ離れたものだ。
青葉木菟あおばずくさんと闘った、翌日。ローズは昨日のうちに人形師さんに預けてある。全部綺麗に直るのにまる二日はかかるというから、ローズは少しのあいだ人形師さんのところに入院だ。カルチェラタンにやってきたその足で、この日、僕は自分のテナントには行かず、通用口三階の廊下に立ち並ぶうちの一室に、まっすぐ向かった。

(表題)「カルチェラタン 第四話 星屋の長い一日」

◆SE:ノック

失礼しまーす……。(おそるおそるドアを開ける)

星屋

ふんっ!(ナイフを数本嵐に向かって飛ばず)

うわあっ!?(ドアの陰に引っ込んで避ける)

星屋

……って、なんだあ?旅人じゃねえか。こりゃ珍しい客人もあったもんだな。

(ドアの隙間からこわごわ顔を出す)星屋さん……誰か来るたびにとりあえずナイフ数本飛ばしてくるのやめてよ……そのうち死人が出るよ……。

星屋

わっはっは!わりいわりい!つい癖でよ!

癖って……。ドア、貫通してるし……。

星屋

だが見てみろ。俺が切り出し、磨きに磨いたこのナイフたちの煌めきを。最高に美しいと思わないか?無論この通り、ちょいと投げただけでドアも貫通しちまうくらい切れ味も抜群。美しい……ああ美しいなあ、俺のナイフは。惚れ惚れするぜえ……。

あははは……。

嵐(M)

無精髭にニット帽、トレードマークのサングラスをかけた、見かけはちょっと怪しいおじさん。この人が、星屋さんだ。たまにちょっと何言ってるかわかんないときがあるけど、ナイフ作りの腕だけは確か。だけど星を削り出すとか、一体何のことなんだか……確かに質は上等だけど、どう見てもただの鋼材から作ったナイフなんだけど……。

星屋

ああ、本当に美しい……俺の手によって削り出され、光り輝く幾億千の星々……。一つとして同じものはない、それぞれが異なる輝きを放つ、俺の磨き上げし星々よ……。

嵐(M)

いけない!星屋さんが自分の世界に入り込んじゃう前に、さっさと用件を伝えちゃわないと……!

あの、星屋さん!今日は頼みがあって来たんです!

星屋

ああ、まっこと美しい……俺の、星……。
──あ?あんたが俺に頼みだって?

はい!あの……僕にあなたのナイフを、見繕ってくれませんか。

星屋

!!、……。(煙草に火をつけ、ふかす)
一体どういう風の吹き回しだい?

……僕が闘技に負けた話は、もうご存知ですか。

星屋

ああ、カルチェラタン管理人の直属の部下があんたのところに来たんだってな。
わざわざご苦労なこって。

あはは……やっぱりカルチェラタンじゃ、噂が広まるのも早いですね。
……ここに来てからはじめて、決定的な敗北を体験しました。ローズも滅茶苦茶に壊されて、昨日から人形師さんのところに入院中。直るのにまる二日はかかるそうで、そのあいだ、僕は勿論闘えない。この現状に置かれてみて、強く感じたんです。僕もローズに頼ってばっかりじゃなくて、何か武器を手にしなくちゃならないって。

星屋

なるほどね。……で?ここに武器専門の技術者はそれこそ星の数ほどいるのに、どうしてよりにもよって俺のナイフなんだい?

いろいろ他の案も考えたんです、銃とか。でも僕、縁日の射的なんかで女の子にボロ負けしちゃうくらい的当ての類は駄目で。それで飛び道具は無理かなって。

星屋

へえ……消去法で俺のナイフを選んだって?

いえ、違います。一番の理由は──千景ちかげくんがナイフ使いだから。

星屋

ユダ、ね。どうやらあんたに散々ちょっかいかけてるらしいな。
確かにあいつは大したナイフ使いだ。作り手の俺も認めるよ。あいつほど俺のナイフを使いこなしてる奴は他にいないってな。

目には目を、っていうでしょう?千景くんと真っ向勝負でやり合うなら、やっぱりナイフかなって思ったんです。……不純でしょうか。

星屋

いや、理由としちゃ十分だ。

それじゃあ……!

星屋

ただし、俺のナイフはただで誰にでも使わせてやれるような代物じゃねえ。
俺のテストに合格した奴にのみ、見繕ってやることにしてる。

テスト?

星屋

なに、単純なことさ。俺とやり合って、適性があると判断されれば合格だ。
……ほれ。(模擬戦闘用のナイフを嵐に投げて寄越す)

うわっ!、……とと。(キャッチ)

星屋

そいつがテストで使う、模擬戦闘用のナイフ。
無論、俺が商売で扱ってる星の名を冠するナイフじゃない。ありゃあ下手に使えば命にかかわるからな。そいつはゴムでできた、ただのオモチャのナイフだ。
思いっきり突き立てたって、傷一つつきやしねえ。

……あ、ほんとだ。ぶよぶよしてる。

星屋

俺も勿論、この模擬戦闘用のナイフを使って闘う。
……俺ぁ元はといえばここの闘技者だったんでね、ちったあ腕に覚えもあんのさ。そっからナイフの輝きに魅了され、技術者に転職しちまった変わりモンだ。
どうだい、やるかい?

……、やります。

星屋

いい目だ。(煙草を揉み消し、立ち上がる)
それじゃあ早速、はじめようか。

あの、ルールとかは……?

星屋

あ?ルールぅ?んな小難しいもんありゃあしねえよ。
あんたはただ俺を殺すつもりでかかってきてくれりゃそれでいい。
適当なところで俺が止めっからよ。

……わかりました。

星屋

心の準備が整ったらいつでも来い。こっちはもう準備万端だぜ。

はい。(深呼吸)……行きます!
はぁっ!(星屋に向かって突進し、ナイフを突き出す)

星屋

おう、はじめてにしちゃあなかなかいいやいばだ。だが、ちょっと動きが単調だねえ。次の手が透けて見える。よっしゃ、俺からも攻撃、行くぜえ!おらっ!(攻撃)

うわ!(避ける)

星屋

そらよォっ!(攻撃)

……っ!(避ける)

嵐(M)

闘技者だった頃、たぶんこの人はものすごく強かったんだろうと思う。普段の気怠げな振る舞いがうそみたいに機敏な身のこなし、技術者となってからのブランクを全く感じさせないこのナイフ捌き!模擬戦闘といえど、この人を〝殺す〟ことは容易ではない。

星屋

へえ、なるほどね。腕力やなんかは並以下だが、小柄な体格を活かしたすばしっこさは見どころがある。はっ、小賢しくって反吐が出るねえ!

嵐(M)

……。褒められてるんだか貶されてるんだかわからない……。

星屋

隙だらけだぜ!らァっ!(攻撃)

うッ!(受け止める)

嵐(M)

いけない……!
星屋さんの掴み所のない言動に気を取られてると、殺る前にこっちが殺られる!

星屋

俺のナイフを正面から受け止めた、か。動体視力もなかなかのもんだな。だが!(引く)

うわあ!(バランスを崩して前につんのめる)

星屋

力み過ぎだ。俺がちょっと引けばあんたは簡単にバランスを崩す。実戦だったらここでグサリってとこだ。もっと力抜いてこうぜえ、少年!(攻撃)

く……!(受け流す)

星屋

おらおらっ、俺ァまだまだ止まんねえぞォっ!(攻撃)

んっ!(受け流す)

嵐(M)

考えなきゃ……!僕なんかよりずっと実戦慣れしていて、ナイフの扱いにも長けている星屋さんを、〝殺す〟ためにはどうすればいいか!どうすれば……!

!!、そうか……!(動きを止める)

星屋

お?なんかイイコト思いついたのかい、戦略家・旅人さんよオ?

嵐(M)

なんだ、簡単なことじゃないか。星屋さんを〝殺して〟しまえば、その時点で僕の勝ちは確定する。だって死人は動けないから。それなら、武器を正しく使い続ける必要なんて、ないんだ。こんな簡単なことに、どうして今まで気づかなかったんだろう。

……っふ、(笑って、ナイフをその場に落とす)

星屋

な……!?武器を、捨てただと!?おい、あんたふざけてんの、か……、!?

嵐(M)

どうということもないふうに星屋さんに歩み寄って、抱きつく。闘ってる最中に、相手がいきなり武器を捨てて抱きついてきたら、誰だってびっくりして一瞬は動きが止まる。
星屋さんが毒気を抜かれてる隙に——、

っ!(星屋のナイフを蹴り飛ばす)

星屋

!!、しまっ……!

嵐(M)

ナイフを持ってる星屋さんの利き手をゼロ距離から正確に、彼の背後に向かって蹴る。油断している今なら、僕程度の蹴りでも星屋さんは容易にナイフを手放す。そのまま素早く腕を掴んで引き倒しざま、回り込んで彼の落としたナイフを拾う。仰向けに倒れた星屋さんを背中から全身を使って抑え込んで、拾ったナイフで……!

はい、このナイフを星屋さんの喉に当てて、仕上げだよ。
(トンッ)……おしまい。

星屋

……!

これが実戦なら、あなたは僕に〝殺された〟──星屋さんはこのテストにルールなんてないって言ってたけど、さすがに殺されちゃったら手の打ち様がないよね?
この勝負、僕の勝ちってことで、異論ないかな?

星屋

──参ったよ。降参だ。

!!、ってことは……!

星屋

闘技者・旅人、合格。見繕ってやるよ。あんたに、俺のナイフ。

や……、やったーーーーー!!!

星屋

つっても、ナイフ使いとしては問題点だらけだな。いくらこのテストにルールはないっつっても、今のはほとんどオツムに頼った反則勝ちみたいなもんだろうが。

あ、あはははは……。

星屋

まあ、負けは負けだ。俺だって男、うだうだ屁理屈こねるつもりはねえ。ちょうどあんたに打ってつけのやつがある。俺のとっておきだ、持ってけ。(嵐にナイフを渡す)

!!、うわあ、すごく綺麗なやいば……!
あ、柄に何か文字が刻んでありますね。えーっと、〝SPICAスピカ〟……?

星屋

そう、スピカ。それがこいつの名だ。全天二十一の一等星の一つ、乙女座で最も明るい恒星、春の夜に蒼白く輝く美しい星。あんたの体を張った〝戦略〟を目の当たりにして思ったのさ。こいつの美しくも狡猾な刃は、あんたにぴったりだってな。
綺麗な薔薇には棘がある。そいつなら、俺がユダに見繕ったナイフ〝アークトゥルス〟にも一泡吹かせられる可能性があるだろう。なんたって、俺が〝アークトゥルス〟と対になるようにって作ったのが、その〝スピカ〟なんだからな。

……!

嵐(M)

〝スピカ〟──千景くんの〝アークトゥルス〟と、対になるナイフ。
これが僕のものとなったのも、何かの縁なんだろうか……。

星屋

あーちなみに、スピカはれっきとしたレディだからな。いくらひょろっちくても、あんたは男だ。しっかりエスコートしてやってくれよ。

ナイフに性別とかあるんだ……。

星屋

つーわけで、代金は十万ぽっきりな!

えぇ!?たっか!

星屋

何言ってんだ、こいつはそんじょそこらのナイフと違うんだ。この星屋様がじきじきに見繕ってやったナイフだぜえ?テスト含めた諸経費考えりゃ妥当だろ。それにあんたレベルの闘技者なら、お帳場客の落としてった金だけで十分払える額だろうが。

そりゃ、ローズ目当てに来てるお客さんもいるくらいだし、チップはたくさん貰ってるけど……。いくらなんでもナイフ一本に高すぎじゃ……。

星屋

ケチくせえこと言ってねえでさっさと出せや!

は〜い……。(金を払う)

星屋

毎度ありィっ!

とほほ……まさかこんなにお金がかかるとは思わなかったよ……。
……。(スピカを見つめる)

嵐(M)

ローズといいスピカといい、僕のところにはどういうわけか女の子ばかり集まってきてしまう。それも、規格外に強い子ばっかりだ。なんたってこの子は、星屋さんの〝とっておき〟──きっとローズに負けず劣らずの力を秘めていることだろう。

……ふふっ。よろしくね、スピカ。

星屋

……。

?、星屋さん?

星屋

──人形を昨日預けて、直るのに二日かかるって言ってたな。

はい、そうですけど……。

星屋

でもって今日は土曜日。少年、あんたも明日は学校、休みだな?

う、うん。ここで学校の話を振られるのはなんかすっごく違和感あるけど、まあ、日曜日だから当然学校はお休みだよ。それがどうかしたの?

星屋

……。(ドアを開け、ノブにかけられた札を裏返す)

〝CLOSED〟……?ああ、今日はもう店じまいなんだ?それじゃあ僕もそろそろ……、

星屋

よし、少年。あんた今晩、俺んとこ泊まってけや。

はい?……って、えぇ!?

星屋

特別出血大サービスだ。人形が帰ってくるまでの残りまる一日、俺があんたにナイフの扱い、徹底的に叩き込んでやるよ。うっし、そういうことで決まりな!

ちょ、ちょっと待って!
その申し出はすっごくありがたいんだけど、それならそれで父さんに連絡入れないと……!えっと、け、携帯!あ、ちょっとここで電話かけさせて貰ってもいいですか?

星屋

あ?電話?おう、そんくらい好きにしろよ。俺なら静かにしてっからよ。

あ、ありがと。(コール音)
──あ、父さん?僕だよ、嵐。今日なんだけどさ、ちょっと急に友達んちに泊まることになっちゃって。……うん、ごめんね。明日の夜にはいつも通りの時間に帰るよ。今日の晩ごはんは冷凍庫に作り置きのおかずがあるから、レンジでチンして食べて。
ほんと急にごめんね。……うん。……うん、僕なら大丈夫。
それじゃあね。おやすみ、父さん。(電話を切る)
ふう……。

星屋

……ガキが闘技者やるってのも、なかなか大変なんだなア。
親御さんにばれない?

たぶんばれてない……と思う。うちの父さん、ちょっと訳ありだし。

星屋

ふーん、そうなんか。ま、ここであんまりプライベートを詮索するのも野暮ってもんだな。とにかく、これでなんも問題はなくなったわけだ!じゃあ早速、訓練開始!
少年!あんたとりあえず、そいつを肌身離さず持ち歩け!
まずは武器を持つってことに慣れろ!

!!、は、はい!

星屋

そんじゃま、とりあえずこのまま食堂行くぞ!飯だ飯!

えっ!?星屋さんとごはん食べるのぉ!?

星屋

嫌そうな顔してんじゃねえ!昼はひねもす夜は夜もすがら、俺と行動を共にして貰うぞ!

はいぃ〜……。

星屋

返事がなってねえ!今から24時間、俺のことは師匠と呼べ、師匠と!

!!、はいっ、師匠!

嵐(M)

ナイフケースに入れて腰にぶら下げたスピカは、想像以上に重かった。
それがスピカ自身の重みなのか、はじめて持った武器の重みなのか、最初僕にはわからなかったけど、星屋さんと肩を並べてごはんを食べてるあいだじゅう、僕の頭は僕の新しい武器のことでいっぱいで、食べるのにろくに集中なんてできなかった。

闘技者

あれぇ〜?旅人がこの時間に食堂にいるなんて、珍しいじゃん。いつもならもう帰ってる時間だろ?しかも星屋と一緒なんて、一体どういう取り合わせなわけ?

あはは……今日はカルチェラタンに泊まりなんだ。
星屋さんとはちょっとなりゆきで……。

闘技者

へえ、そうなん?星屋はかなりの変人だから気をつけろよー。

あはははは……。

嵐(M)

僕と星屋さんというかなり珍しい組み合わせは、食堂中から大注目を集めていたけど、星屋さんはずっと素知らぬふりをしてた。なんでも僕がナイフを手に入れたことは、僕自身が武器を持つことに慣れるまで、まだみんなには内緒らしい。じゃないと、〝人形使いの旅人〟がついに自ら武器を取ったことに、周りの方が騒ぎ出しちゃうから、だそうだ。
だから僕も、なるべくいつも通りに振る舞っていたけど……、

──はあぁ〜〜〜……。
ただ食堂に行ってごはんを食べただけなのに、なんだかものすごく疲れちゃったよ……。

星屋

なんだあ?早くも音を上げるたあ、情けねえじゃねえの、少年?
若いんだからもっとシャキッとしろや、シャキッと。

あははは……武器ってすごく重いんだね。僕、武器がこんなに重いなんて知らなかったよ。

星屋

武器を持つってのがどういうことか、ちったあわかったか?

うん、たぶん。人を傷つけられる道具が、ちょっと手を伸ばせばいつでも手が届くところにあるんだもんね。なんていうかその重みがさ、すごいよ。

星屋

それが理解できりゃ上出来だ。そいじゃ、今日はもう寝ていいぞ。ああ、寝るときもちゃんとスピカをそばに置いとけよ。ていうかむしろ、抱いて寝ろ。
あんたの布団はそこな。俺ももう寝る。

あれ?星屋さん、シャワーは?

星屋

俺はシャワーは気が向いた時にしか浴びん主義だ。面倒だからな。

……。僕、シャワー浴びてから寝るよ……。

星屋

おう、好きにしなー。

嵐(M)

翌日。

星屋

おら少年、起きた起きたァっ!寝坊だぞ、寝坊!

……んん……もう朝……?

星屋

朝も朝、超・朝だ!飯食いに行くぞ!

うぅー……僕、昨日の夜、言われた通りにスピカを抱えて寝たら、なんだかそわそわしちゃってなかなか寝つけなくて……まともに眠れた気がしないよ……。

星屋

わはははは!そうだろうそうだろう。
よし、飯食ったら早速訓練再開な!あ、勿論そいつを持ってくのを忘れんなよ!

嵐(M)

お、鬼教官……!

***

星屋

──というわけで、武器の重みにもちったあ慣れてきた頃だろう。
飯も食い終わったんで次はいよいよ実践に移る。

ごはん食べたばっかりなのに、今すぐ!?

星屋

ったりめえだ!俺たちにゃ24時間ってタイムリミットがあるんだぞ!
言ったろ、徹底的に叩き込むってな!

とほほ……おなかが苦しいよ……。

星屋

まずは基本中の基本。ナイフを八方向から正しく振れるようにする訓練だ。テストの時に使ったような模擬戦闘用のナイフじゃなくて、本物のナイフをはじめて振るんだからな。怪我しないように気をつけろよ。じゃ、こんな感じで声出しながらやってみろ。
1・2・3・4、2・2・3・4!(ナイフを振る)

1・2・3・4、2・2・3・4っ……!(ナイフを振る)

星屋

じゃあそれ100セット、3回なー。

はあぁぁぁぁぁあ!?

星屋

文句は言わせん。おら、さっさと続けろや!

〜〜〜〜〜っ!
1・2・3・4、2・2・3・4!
(フェードアウト)

***

(フェードイン。大分疲れている)
1・2・3・4ッ、2・2・3・4ッ……!
1・2・3・4ッ、2・2・3・4ッ……!

星屋

んー、いいもんだねえ。若者が汗水流して頑張る姿ってのは。青春だねえ。

そろそろっ、腕がっ、痛いっ、よっ!(ナイフを振りながら)

星屋

ああ?どんだけ軟弱な腕してんだよ!
まあ確かに棒っきれみてえだけど……甘ったれたこと言ってんじゃねえぞォ、少年!
訓練は夜まで続くんだからな!

……!………!!(絶句)

星屋

いいから余計なこと喋くってねえで手を動かせ、手を!

はいぃ〜……。

星屋

返事がなってねえ!

!!、はいっ、師匠!

嵐(M)

こうして、星屋さんの地獄の特訓は、休む間もなくひたすら続いた……。そして、夜。待ちに待ったローズを迎えにいく時間が、ようやくやってきた。

それじゃあ、星屋さん。まる一日、お世話になりました。

星屋

おう、気を緩めないでしっかりやれよ。どうだ?ちったあナイフの扱い、覚えたか?

うん、まあね。おかげさまで泥みたいに疲れきってるけど、あはは……。勿論、ナイフ使いとしての僕はまだまだ未熟なんだと思う。でも、スピカは大分手に馴染んだよ。武器を持つってことにも慣れた。星屋さんに叩き込まれたことを無駄にしないように、頑張るよ。

星屋

その意気だ。

……!、本当に、ありがとうございました!

星屋

人形にもよろしく言っといてなー。またいつでも遊びに来いよ!

うん!またね、星屋さん!

◆嵐、去る。

星屋

……っはは。俺はどうやらとんでもねえ闘技者に、エモノを授けちまったみてえだな。テストで俺を〝殺した〟時のあいつの目──あれは確かに、本物だった。
俺の教え、忘れるなよ、少年。じゃないと、あんたは──、

嵐(M)

ナイフ一本に十万円なんて、とんでもない額だと思ったけど、この一日で星屋さんから学んだことを考えれば、確かに妥当だ。昨日までの僕と今日の僕、明らかに何かが違う。
青葉木菟さんに敗北してから、まる二日。一度は本当に、心が折れてしまいそうになったけど……今日はちゃんと前を向いて、ローズを迎えにいけそうだ。

to be continued.