カルチェラタン

第三話 苛烈なる使者

企画:Familiar Company
作者:饗庭璃奈子(あいばりなこ)
比率:♂1♀3
時間:約30分

廃百貨店・カルチェラタン。
謎に包まれた〝貝の火〟を巡り、闘技者たちは人知れず、日々カルチェラタンで抗争をする。光を求めて闘い続ける、透明な子供たちの行く末は──。

《これまでのあらすじ》
桜庭嵐、コードネーム・旅人。自らは武器を持たず、戦略と生き人形ローズヒップ・ジンジャーだけを武器とする異端の少年闘技者。父親のため、彼は闘い続ける。カルチェラタンの荒くれ者、鬼灯のチームを倒した嵐の元を、その日、一人の客人が訪れる。

※Skype上での声劇・ニコニコ生放送などで、ご自由にお使い下さい。
※企画などでご使用になる場合は、まずはご連絡下さい。

桜庭 嵐さくらば あらし
コードネーム:旅人。女性演者推奨。カルチェラタンの闘技者の一人で中学三年生。小柄で身体能力も低いが、最強の人形とうたわれるローズの主であり、カルチェラタンで畏怖されている。彼自身は武器を持たず、戦略と人形だけで抗争に勝利し続けているが……?
ローズヒップ・ジンジャー
まるで本物の人間のように精巧に作られており、自分の意思で喋り、動きもするが、人形である。嵐を主として付き従い、なんだかんだで嵐のことを慕っている。容姿は幼いが戦闘に特化しており、最強の人形とうたわれる。わりといつもむすっとしている。
青葉木菟あおばずく
カルチェラタン管理人直属の精鋭部隊、〝文車妖妃〟の一人。天女のような美貌を持ち、柔和でたおやか、一見おっとりとした女性だが、その気迫はそれだけで相手をひるませるほど。武器は弓。
守衛
廃百貨店・カルチェラタンの守衛。いつも制帽を目深に被り、その顔を見た者は誰もいない。旅人くんがお気に入りのご様子。
管理人
廃百貨店・カルチェラタンの管理人。その顔を知る者は直属の部下のみ。全てが謎に満ちた人物。声劇でやる場合は守衛と被り推奨。
嵐の父であり、嵐の唯一の家族。とても穏やかな優しい人で、いつも静かに笑っている。一台詞だけです、守衛と被り推奨。
守衛

聞いたよ旅人くん!鬼灯ほおずきたちをやっつけたんだって?

嵐(M)

いつものように通用口から駆け込んで、開口一番、守衛さんにそう声をかけられる。
ここカルチェラタンでは、噂が広まるのも早い。

あはは……僕がっていうか、ローズがね。なに?その話もうそんなに広まってるの?

守衛

広まってるも何も、カルチェラタン中その話題で持ちきりだよ。鬼灯たちは確かに強かったけど、問題児だったからねえ。闘技者だけじゃなくて、技術者やお帳場客にも乱暴働いてたから、管理者側で処理してしまおうかって話が出たこともあったくらいなんだ。
いやあ、旅人くんたちが彼らを潰してくれて助かったよ。

そうだったんだ……。確かに、悪そうな人たちだったもんね。
猩猩しょうじょうさんは、ちょっとは見どころあったけど。

守衛

そうそ。鬼灯と八咫烏やたがらすなんかは外の世界でいうところのただの粋がった不良だよ、不良。

あははは……。

嵐(M)

カルチェラタンには闘技者以外にも、たくさんの人がいる。
爆弾狂の白熱灯さんや薬品マニアの群青さんみたいに、外の世界じゃできないことに没頭する〝技術者〟。危険を承知で大枚はたいて僕らの闘技を見物に来る〝お帳場客〟。そして守衛さんみたいな、カルチェラタンの管理者側の人たち。闘技者同士は殺し合ったって何の問題にもならないけど、他の人たちに手を出すのは、御法度だ。

それじゃ僕、行くね。ローズを待たせてるから。

守衛

ああ、引き止めちゃってすまなかったね。期待してるよ、旅人くん。

嵐(M)

その日、カルチェラタン6階、東地区2番の僕らのテナントに辿り着くまでに、鬼灯さんのチームのことでいろんな人に声をかけられた。これまでに僕が倒してきた闘技者たちだ。僕らが鬼灯さんたちみたいに徹底的に潰すのは、本当にたちの悪い人たちや強い人たちだけだから、並大抵の闘技者とは、なんだかんだで仲良くなってしまうことも多い。
僕らが人の腕を吹っ飛ばしたり、肩や腹に風穴開けても、みんなが僕にごくふつうに接してくれるのは、それが僕自身のやったことじゃないからかもしれない。僕はローズに、本来なら僕が背負うべきはずの罪を、押し付けているのかもしれない……。

ごめん、ローズ!待った?
……ローズ?

ローズ

……嵐。客人だ。

客人?……あ、

青葉木菟

──はじめまして。あなたが旅人、ですね。わたくし、青葉木菟あおばずくと申します。

嵐(M)

そこにいたのは、大きな弓を背負った、まるで天女様みたいに綺麗な一人の女の人だった。そのあまりの美しさに思わず見蕩れた僕は、次に発された彼女の言葉に、凍り付いた。

青葉木菟

わたくしは、廃百貨店・カルチェラタンの管理人に申し付けられてここに参りました。
以後、お見知り置きを。

(表題)「カルチェラタン 第三話 苛烈なる使者」

***

管理人

〝雲雀の子を助けた仔兎は、鳥の王より宝珠を賜る〟
人の子は雲雀。鳥の王は──ククッ、私かな。此度の仔兎よ。その実力、とくと見せてもらおう。きみは実りをもたらすのにふさわしい者かどうか。私の可愛い亡霊が、確かめてくれる。生き人形がきみに余りあるものだとすれば、あれは再び我らの元に。
きみがふさわしい者ならば、その時こそ私は、残る全てをきみに懸けよう。
せいぜい、楽しんでくれたまえ。この戯れをな。

***

!!、カルチェラタンの、管理人……!?

青葉木菟

あらやだ、そんなに身構えないで下さいまし。
大した者ではございませんのよ。

ローズ

で、嵐に何の用があってここに来た?青葉木菟。

青葉木菟

鬼灯のチームを、倒して下さったそうですね。彼らの素行にはわたくしどもも手を焼いておりました。そのことには、大変感謝しております。

あ、いえ、そんな、とんでもない……!

青葉木菟

ですが、今回の件でわたくしどもの管理人が、これまで以上にあなたに興味を抱いてしまったようなのです。わたくし、こう命じられましたわ。

管理人

〝お前のその手で、目で、生き人形ローズヒップ・ジンジャーのあるじの実力を確かめてこい〟

管理人さんが……?

ローズ

我が主の実力を、確かめる……?まさか!

青葉木菟

ローズヒップ・ジンジャーはわたくしどもにとっても特別な意味を持つ人形。管理人があなたに興味を持つのも無理はございません。
はっきりと申し上げましょう、闘技者・旅人。あなたに、闘技を申し込みます。
──よろしいですね?

ローズ

青葉木菟ほどの者がここを訪れた意味──やはり、そういうことか。

……。あなた一人で、ですか。

青葉木菟

うふふ、女だからといって油断なさらないで下さいまし。わたくし、闘いの心得も、少しはありますのよ。例えば——そうですわね。やむを得ず、この場所から排除しなくてはならないと管理人が結論づけた闘技者がいたとする。そうした場合に動くのが、わたくしども、〝文車妖妃ふぐるまようき〟の名を持つ部隊なのです。時には闘技者を殺すことだってございますわ。鬼灯は、わたくしどもが動く一歩手前で、あなたが潰して下さいましたが。

……!!

青葉木菟

ああ、ご安心下さいまし。勿論あなたがわたくしに敗北しても、カルチェラタンからの追放とはなりません。あなたを殺すような真似も決していたしません。わたくしはあくまで、〝あなたの実力を確かめにきた〟──それだけですから。

……。受けて立ちます。

ローズ

な……!?

青葉木菟

そうこなくっては、面白くありませんわ。

ローズ

嵐!〝文車妖妃〟の力は本物だ。わらわは人形、壊れればまた直せばよいだけ。だが嵐は生身の人間!まかり間違えば命を落とす可能性だってある。
こんなもの、闘技でも何でもない……!危険だ!

青葉木菟

あらあら、随分と舐められたものですわね。言ったでしょう?〝旅人を殺すような真似は決してしない〟と。誤って殺すなど、わたくしどもに限ってありえませんわ。
人形はおとなしく、主のいうことを聞きなさい。

わかってるよ、ローズ。相手はカルチェラタン管理人直属の部下、それに物静かな振る舞いでありながら空気がビリビリするようなこの気迫……!明らかにただ者じゃない。

ローズ

ならば何故かような申し出を受ける……!?その必要はない!

わかっているけど!なんかさ、わくわくするんだ。この人は一体何を持ってるんだろう、この人の手の内を見てみたいって、心が躍って仕方ないんだよ……!

ローズ

!!、嵐……。っ、なんということ……!

青葉木菟

ご覧なさい、ローズヒップ・ジンジャー。あなたの主の方が、よほどカルチェラタンでの闘技者のあるべき姿を、理解していらっしゃいますわ。

ローズ

くっ……!

青葉木菟

うふっ。では、早速はじめましょうか。闘技を。

……はい。行くよ、ローズ。

ローズ

……致し方あるまい。

嵐(M)

〝カルチェラタンの管理人〟……闘技者も技術者もお帳場客も、その顔を知る者は誰一人としておらず、めぼしい情報も皆無。そんな人の直属の部下が、突然僕の前に現れた。
一見柔和でたおやかな女性に見えるこの人の力も——未知数。

……?、その背中の弓は、使わないんですか?

青葉木菟

まずは軽く腕試しから。これの出番には、まだ早いですわ。もっとも、わたくしの本当の武器の出番が来るかどうかも、わかりませんけれど。

……!!、はは、すごい自信だね……。

青葉木菟

先攻はあなた方にお譲りしましょう。さあ、お好きなようにどうぞ。

嵐(M)

この人がローズの力をどこまで知っているのかわからない。でもたぶん、鬼灯さんたちにやったみたいな撹乱はこの人には通用しない。だったら……!

殺す気でやれ、ローズ。

ローズ

御意。(青葉木菟に向かって突進)

***

管理人

そろそろ、やっている頃かな。……どうした?お前。
心配なのかい?あの仔兎が。

???

……。

管理人

まあ無理もない。お前の存在の由縁を考えれば、当然のことだ。

???

……。

管理人

だが、私はこの不毛の地に実りをもたらすことができるのであれば、例えあの少年が仔兎として茨の道を選び取るとしても、構わないと思っているよ。

???

……。

管理人

不服かね?おや、行ってしまうのかい?……ククッ、何、お前は好きに動け。止めたければ、止めてみるがいい。なあ……?我が唯一の相棒?

***

青葉木菟

わたくしに小細工は無用と判断したのですか?うふふ、懸命です。ですが、そんな真っ向からの何の捻りもない攻撃、全くもって面白みが、ない!(かわす)

ローズ

なにッ!?

ローズのスピードを、かわした!?

青葉木菟

(ローズの耳元で囁く)あなたの〝殺す気〟とやらも、随分とちゃちなものですわね、生き人形。飼い主に似てしまったのかしら?

ローズ

貴様……!嵐を軽んじるな!

青葉木菟

はい♪(ローズの腕を掴み上げ、回し投げ)

ローズ

ぬあ!?(地面に叩き付けられる)

な……!?

嵐(M)

何が起こったのかわからなかった。
まるで舞踏のように優雅な動き、息をするような、流れるような自然な身のこなし!それなのに、ローズは地面に叩き付けられていて、おまけに地面はひび割れている。

青葉木菟

さあ、次はどんな手を見せて下さいますの?まさかこれで終わり、なんておっしゃらないで下さいまし?

……っ!

ローズ

嵐……。

……。──ローズ。そのまま突つけ。

ローズ

!!、んっ……!(倒れ臥したまま、青葉木菟の脛を蹴る)

青葉木菟

えっ……!?きゃっ!(バランスを崩す)

彼女が不意を突かれた隙に、体勢を立て直せ。狙うのは足元だ。狙い続けろ。

ローズ

任せておけ。ふっ!(足元を攻撃)

青葉木菟

く……!(跳び退く)

ローズ

はっ!(足元を攻撃)

青葉木菟

っ、小賢しい……!(跳び退く)

そうだ、当てなくてもいい。とにかくスピードで追い詰めるんだ。そして──、

◆青葉木菟、背後の壁にぶつかる。

青葉木菟

!!、しまっ……!

壁際まで追い詰めたら、狙うのは、急所。

ローズ

やあぁぁあっ!(攻撃)

青葉木菟

!!

っふ、(笑う)

ローズ

……ちぃっ。

青葉木菟

……!!(ローズの手刀、壁にめり込んでいる)

……なーんてね。あははっ、やっぱりそう簡単には決めさせてくれないか。

青葉木菟

!?

青葉木菟(M)

この状況で、笑った……!?
あんなに楽しそうに、無邪気に、まるでいたいけな子供のような顔で……!
この少年は、やはり……!

ローズの体勢が整ってないからって、油断したね、青葉木菟さん。
ローズが上半身を狙っていれば青葉木菟さんにもまだ反撃のチャンスはあったかもしれないけど、僕は敢えてローズにあなたの足元を狙わせた。引かざるを得なかったでしょ?
僕もさ、男の割には背丈がないし痩せっぽっちだから、わかるんだ。一見、戦闘においては不利な要素に見える小柄な体も、時には武器になるってね。

ローズ

嵐の戦略は一流。わらわは常に嵐と共に闘っているということ、忘れるってもらっては困るな、青葉木菟。嵐の力があってこそ、わらわたちは勝利を掴み続けてきた。

青葉木菟

……!!、少しは頭が回るようですわね、旅人。これまであなたが多くの闘技者たちを倒してきたというのにも、納得がいきました。ですが、あなたはまだわたくしに、一撃も与えられていない。まだ勝機はあると、考えていらっしゃいますの?

さあね……!そんなのやってみなくちゃわかんないよ。だって青葉木菟さん、強いもん。だけど僕は、どんな僅かな隙も決して見逃さない。最後の最後まで、諦めないよ。

青葉木菟

……ふふっ。どうやら少々面倒な仕事を、押し付けられてしまったようですわね。いいでしょう。そろそろわたくしからも、仕掛けさせていただきます。〝文車妖妃〟の本来の仕事は〝排除〟──こんな〝雑務〟はさっさと片付けてしまいたいですから。

ローズ

……大口を叩きおる。

ははっ、見かけによらず口もなかなか達者だね、青葉木菟さん。

青葉木菟

──では、参りましょうか。

嵐・ローズ

……!!

***

管理人

闘技者・旅人。己の存在を承認できない、透明な子供。
……哀れな子だ。だがだからこそ、可能性がある。よどみのない存在は、染まり上がるのもまた早い。坂の天辺にある石を、ほんの少しつま先で突ついてやる、それだけでいい。転がりはじめた石は止まらない。ただ、坂の終わりまで、転がり続けていくだけだ。
彼を止められると、本当に思っているのかい?我が、相棒よ。

***

青葉木菟

ふっ!(嵐に向かって突進)

えっ、

ローズ

何!?

青葉木菟

そぉれ♪(嵐を地面に引きずり倒す)

うわあっ!(倒れ臥す)

ローズ

嵐!

青葉木菟

うふふっ……聞けば旅人、あなたは人形以外に闘う手段を持たないそうですね。ですがあなたもまた一人の闘技者。これまでにも、こんな状況に陥ったことがあったのではないですか?

……!

青葉木菟

さあ、こんな時、あなたならどう動き、どう対処しますか?
見せていただきましょう、旅人の本領を!
(嵐の襟首を掴み上げる)

ぐゥっ……!

ローズ

嵐から離れろ!(青葉木菟に向かって突進)

青葉木菟

あらあら、今はあなたの出る幕ではございませんのよ、ローズヒップ・ジンジャー。わたくしは〝旅人の〟実力を確かめにきたのですから、ね!(ローズに攻撃)

ローズ

ぬっ……、ぐあ!(壁に叩き付けられる)

……っ!

嵐(M)

僕を腕一本で掴み上げたまま、一撃でローズをあんなところにまで吹っ飛ばした!
……駄目だ!僕が何とかしなくちゃ!何とか……!

!!

嵐(M)

青葉木菟さんの腰に、矢筒が括り付けられてる……!
あの中から、一本!一本でも、矢を奪い取ることができれば……!
──ローズ!青葉木菟さんの気を引き付けるんだ!

ローズ

(嵐の視線の意図に気づく)……っ!こなくそ!たあぁぁあっ!

青葉木菟

主の危機に心を乱したのですか、生き人形?愚かしい……!
攻撃の狙いが定まっておりませんわね!

ローズ

やぁっ!ふっ!はあぁっ!

青葉木菟

無駄だと言っているでしょう!

……!

嵐(M)

ローズが僕の意図に気づいた!
──うまい!僕の危機に心を乱したふりをして、滅茶苦茶な攻撃を続けざまに繰り出してる!
この隙に……!

青葉木菟

え、

嵐(M)

青葉木菟さんの矢筒から奪い取った矢を、

ローズ

やれ、嵐……!

ふっ……!(青葉木菟に向かって矢を振り下ろす)

青葉木菟

……!!

◆沈黙。

──〝目〟を狙ったつもりだったんだけど、ほっぺたをかすっただけか。やっぱり速いね、青葉木菟さん。それに武器って、思った以上にコントロールが難しい……、

青葉木菟

(被せて)顔は女の命ですのよ。

え?、……っ!?

嵐(M)

たった二本の指で、矢をへし折った……!?

青葉木菟

……!(嵐の体を乱暴に放り捨てる)

うッ!(地面にくずおれる)

ローズ

嵐!……貴様、よくも!

青葉木菟

それに、矢はそういう使い方をするものじゃありませんわ。
何もかも、まるでなっていませんわね。

!!、青葉木菟さんが、弓を……!

ローズ

……!〝文車妖妃〟が、本気を見せる……!

青葉木菟

少々、手ほどきが必要なようですね。
見せて差し上げます。わたくしの武器の、本当の使い方を。
……ふっ!(矢を放つ)

ローズ

危ないっ!(嵐を庇って矢を受ける)

!?、……ローズ!

青葉木菟

あらあら、健気ですわねえ。体を張って主を守ったのですか?
ですが、まだまだっ!(立て続けに矢を放つ)

ローズ

させるか!こんな矢、わらわが全て受け止めてやる!……んんっ!

ローズ!やめるんだ、そんなことしなくていい!

青葉木菟

おわかりいただけましたか、旅人?武器とは正しく使わなければ、武器本来の力を出せないのです。あなたは生き人形を、正しく使えていらっしゃいますの?

……!!、ローズは武器じゃない!

青葉木菟

あら、じゃああなたにとって生き人形とは何なのかしら。あなたの武器は何?まさか武器一つ持たずに、闘技者を名乗っているとおっしゃいますの?
とんだお笑いぐさですわ、ね!(矢を放つ)

ローズ

わらわがどうなろうとも、嵐に血は流させん!くうっ……!(矢を受ける)

!!、もういいローズ!
青葉木菟さんは僕を殺さないって言った!
僕なら大丈夫だから……!

ローズ

黙っていろ!わらわは、もう……!主が倒れゆく様など、見たくないのだ!
嵐が何と言おうと、これだけは譲れん!

ローズ……、

青葉木菟

うふふっ、人形と主の、美しい絆ですわね。
──そうですね。確かにわたくしは〝旅人は〟殺さないと申し上げました。ですがその絆に免じて、旅人の代わりに、あなたのことを破壊して差し上げることにいたしましょうか。

ローズ

……!、それならばいいだろう。わらわはもうここから一歩たりとも動かぬ。好きにしろ。

……やめろ。

青葉木菟

いい心構えですわ、ローズヒップ・ジンジャー。(弓を構える)

やめろ……っ!

***

危ない、嵐!

◆SE:硝子の割れる音

幼少期の嵐

……え?

***

青葉木菟

……。(ローズに狙いを定める)

やめろ……、やめてくれっ……!

***

幼少期の嵐

──父さん……?、父さん!しっかりしてよ……!目を開けてよ、父さん!

***

青葉木菟

はぁっ!(続けざまに矢を放つ)

やめろオォォォォォォォオッ!!!!!

ローズ

……っ…、(ローズ、矢を全て受けて倒れる)

──ローズ?、ローズッ!(ローズに駆け寄る)
ローズ、腕が……!足が!

ローズ

案ずるな……わらわは、人形……壊れればまた、直せばよい……。

青葉木菟

生き人形の言う通りです。何をムキになっているのですか、旅人?言ったでしょう?ローズヒップ・ジンジャーはわたくしどもにとっても特別な意味を持つ人形。そして無論、生き人形の〝核〟を破壊することもわたくしどもにはできません。ただ腕と足を一本ずつ、潰して差し上げただけです。あなたの非力さへの、見せしめとして。

……ッ!(青葉木菟を睨む)

青葉木菟

あらあら、たかが人形一体のために、恐ろしい目をなさいますのね。
ご安心なさい。ローズヒップ・ジンジャーは、カルチェラタンの誇る〝人形師〟が綺麗に直して下さることでしょう。──それにしても、拍子抜けですわね。話に聞く旅人が、この程度とは。もう少し、楽しませて下さるかと思っていたのですけれど。

……。

青葉木菟

わたくしはもう行きますわ。管理人にこのことを報告しなくてはなりません。それでは、ご機嫌よう。くれぐれも生き人形を、よろしく頼みますわね。

◆青葉木菟、立ち去る。

ローズ

嵐……怪我は、しておらぬか?どこか、痛むところは……、

──クソッ!

ローズ

嵐?

僕には、何の力もない!
大事なもの一つ、守り通すことすらできない……!

ローズ

嵐……!そんなことはない、嵐がいなければ、わらわなど、とうにこの不毛の地で……、

(被せて)力だ……!力がいる!僕自身が闘うための、力が……!
!!、そうだ、武器だ……。武器が必要なんだ。僕は僕自身が闘うための力を、手に入れなくちゃならない……!遂げるべき、目的のために。守る、ために……。

***

◆SE:ノック音

管理人

入れ。

青葉木菟

……失礼いたします。

管理人

お前か。例の件は、どうなった。

青葉木菟

ええ。ご命令の通り、生き人形の主、闘技者・旅人の元に行って参りました。勿論、わたくしが勝利いたしましたわ。今の旅人は少しばかり頭が回るだけの、ただの子供です。

管理人

そうか。そうだろうな。此度の仔兎はただの子供。透明なだけの、な。

青葉木菟

ですがまだ伸びしろはあると、確かに感じました。
……いえ、既にその片鱗があると言って、差し支えないでしょう。

管理人

お前がそう言うのならばそうなのだろう。では、生き人形は少年の元に。

青葉木菟

はい。……あの少年の未来が見えましたわ。

管理人

ほう……どんな未来だ?

青葉木菟

生き人形は、あの子の元では正攻法では育たない。それでも目的に向かって歩み続けるのであれば、少年自身が血を吸い、嗜虐に支配されるより他に道はない。
そうしていずれ、罰を受ける。多くの人を傷つけた罰を。

管理人

罰……か。それはあの少年にとって、善きことか、悪しきことか。

青葉木菟

あの少年には決定的に欠けているものがあります。自らは武器を持たずして、既に心をカルチェラタンの血にあれほどまでに染め上げられてしまっているのが何よりの証拠。貝の火の力に縋ろうとするのも自らのためではなく、他の誰かのためでしょう。
……だからこそ、可能性がある。貝の火の力を目覚めさせる可能性が。

管理人

誰もが成し遂げられなかった悲願を、〝透明な少年〟が叶える、というわけか。
クックック……実に奥ゆかしいものではないか。

青葉木菟

……茨の道です。あのような子供に、歩かせてよい道なのか……。

管理人

それは少年自身が選ぶことだ。我々が口を出すべきことではないよ、青葉木菟。
我らの仕事は闘技者たちのために舞台を整えること。それだけだ。

青葉木菟

……出すぎたことを言いました。申し訳ございません。

管理人

とにかくお前はよく働いてくれた。この仕事をお前に任せたのは正解だったよ。おかげで少年の現状をよく知ることができた。そしてこの敗北は、少年にとっても大きな意味を持つことだろう。お前の観察眼はやはり確かだ。その優しさが、玉に瑕だがね。

青葉木菟

……。

管理人

排除すべき存在ですらないただの子供を攻撃するのは、お前にとっては酷だっただろう。すまなかったな。今日はもう……安らかに消え去るがいい。
哀れなる亡霊軍団、文車妖妃の青葉木菟よ。

青葉木菟

……はい。お心遣い、ありがとうございます。

◆青葉木菟、大気に溶けるようにして消える。

管理人

……そうか。やはりこうなるか。
旅人——桜庭嵐さくらばあらし。貝の火はきみを選ぶ。
果たしてこれは、運命なのかな。
嵐。きみは私だ。どうか、壊してやってくれ。自ら時を止め、十五年の月日が経った今も未だあの日を生き続ける、あいつの罪を。

to be continued.