カルチェラタン

第一話 闘技者、旅人

企画:Familiar Company
作者:饗庭璃奈子(あいばりなこ)
比率:♂2♀3
時間:約20分

廃百貨店・カルチェラタン。
謎に包まれた〝貝の火〟を巡り、闘技者たちは人知れず、日々カルチェラタンで抗争をする。光を求めて闘い続ける、透明な子供たちの行く末は──。

※Skype上での声劇・ニコニコ生放送などで、ご自由にお使い下さい。
※企画などでご使用になる場合は、まずはご連絡下さい。

桜庭 嵐さくらば あらし
コードネーム:旅人。女性演者推奨。カルチェラタンの闘技者の一人で中学三年生。小柄で身体能力も低いが、最強の人形とうたわれるローズの主であり、カルチェラタンで畏怖されている。彼自身は武器を持たず、戦略と人形だけで抗争に勝利し続けているが……?
ローズヒップ・ジンジャー
まるで本物の人間のように精巧に作られており、自分の意思で喋り、動きもするが、人形である。嵐を主として付き従い、なんだかんだで嵐のことを慕っている。容姿は幼いが戦闘に特化しており、最強の人形とうたわれる。わりといつもむすっとしている。
君島千景きみしま ちかげ
コードネーム:ユダ。カルチェラタンの闘技者の一人。嵐と同じくらいの年頃。ナイフ使い。頭がよく、身体能力も高い。嵐に固執し、たびたび奇襲を仕掛ける。飄々としていて掴みどころがなく、その行動原理は仲間ですら理解できないことも多いようだ。
猫娘
本名不明。カルチェラタンの闘技者の一人で、千景のチーム。嵐と同じくらいの年頃。身体能力は並だが、射撃において彼女の右に出る者はいない。マイペースで、ローズちゃんが大好き。麝香鼠とは犬猿の仲。背が低いのを気にしている。無論、貧乳である。
麝香鼠じゃこうねずみ
本名不明。カルチェラタンの闘技者の一人で、千景のチーム。歳は嵐たちよりちょっとだけ上。猪突猛進型で、いわゆる脳筋。馬鹿。とにかく馬鹿。しかし身体能力と動体視力はずば抜けており、肉弾戦ではトップクラスの実力を誇る。猫娘とは犬猿の仲。
守衛
廃百貨店・カルチェラタンの守衛。いつも制帽を目深に被り、その顔を見た者は誰もいない。声劇でやる場合は千景と被り推奨。

◆嵐、駆け込んでくる。

おはよう、守衛さん。

守衛

おはよう。……ああなんだ、旅人くんか。

(苦笑)その呼び方はやめてよ。

守衛

でも、それがここでのきみの名前だろう?

そっちはどうも慣れなくって。

守衛

はは、きみみたいな子は珍しい。
大抵の奴らは、この場所で本当の名前を名乗ることの方を嫌がるんだけどね。
きみとユダは、本当に異端だよ。
あらゆる意味においてね。

でも、別にここで本当の名前を隠さなきゃいけないなんて決まりはない。そうでしょ?

守衛

うん、まあね。本当の名前を明かしたところで、ここの掟には背かない。
はい、入館許可証のバッジ。

……前から思ってたんだけど、これ、必要ある?

守衛

廃業したとはいえ、百貨店ですからね。こういうところはきちんとしないと。
不当に侵入する者は、排除しなくちゃいけないんだよ。
この場所の秘密を守るためにもね。

そういうものかなあ……。

守衛

そういうものなんだよ。

まあいいや。僕、行ってくるよ。

守衛

いってらっしゃい。例のもの、見つかるといいね。旅人くん。

ありがと、守衛さん。

嵐(M)

いつも制帽を目深に被って、顔も見たことがない守衛さん。彼からバッジを受け取って、この廃百貨店・カルチェラタンに足を踏み入れた瞬間、ごくありふれた中学生・桜庭嵐さくらばあらしの日常は、音を立てて崩壊する。いや、もはやこの非日常こそが、僕らの日常なのかもしれない。

(表題) 「カルチェラタン 第一話 闘技者、旅人」

ローズ

遅いぞ、嵐!何をしておったのだ!?

嵐(M)

カルチェラタン6階、東地区2番。
ここが僕と彼女のテナント、すなわち縄張りだ。

ごめん、ローズ。ちょっとホームルームが長引いちゃって。

ローズ

(ため息)また〝学校〟とやらの話か。わらわには外の世界のことはよくわからん。

ははは……。

嵐(M)

この小さな女の子は、ローズヒップ・ジンジャー。
まるで本物の人間みたいに精巧に作られているし、喋るし、動くけど、人形だ。
廃百貨店・カルチェラタンでの僕の相棒。
見た目は本当に幼いけど、とっても頼りになる。

それで、中の様子はどう?

ローズ

いつものことだ。大概の奴らのことは気に留めるまでもない。
わらわたちの力を恐れ、近づいてくることもないだろう。
だが、つい今しがたユダの姿を見かけた。
仲間と合流して、今日もこちらの縄張りに攻めてくるつもりだ。
既に策は講じてあるとはいえ、心しておけ。
癪だが奴らは確かに手強い。

〝ユダ〟が……そっか。
それじゃあ昨日立てた作戦通り、例のポジションで待ってないとね。
(天蓋の下に座り込む)

ローズ

……嵐。まだ迷っているのか?

ううん。大丈夫だよ。迷ってなんかいない。

ローズ

そうだな。お前には、遂げるべき悲願があるのだものな。

うん。
〝不毛の地を耕し実りをもたらせ。さすれば光はすべての子らに還る〟
……僕は必ず、成し遂げる。

ローズ

……あるじの意のままに。

千景

よー、嵐くん。待たせたかな。

!!、千景ちかげくん……!

猫娘

やっほー、ローズちゃん!今日もかわいいねえ!

ローズ

……ふん、また来たか。うつけどもめ。

麝香鼠

おいおい、仮にも女の子がちょっと口悪いんじゃないのお?
ネコ、お前も同じ女としてなんか言ってやれよ。

猫娘

ネズミ、うるさい。

麝香鼠

んだとお!?てめえこの、チビが!

猫娘

なにぃーっ!?脳筋のくせに生意気な!

千景

はいはい、お前らはちょっと静かにしててなー。

猫娘

(同時に)はーい。

麝香鼠

(同時に)へーい。

はは、千景くんのところは相変わらずにぎやかだね……。
緊張感ないっていうか……。

千景

っあは、いつものことでしょ。
さ、嵐くん!うちのが話の腰を折っちゃって悪かったね。
それじゃ、早速はじめようか。闘技を。

嵐(M)

僕と名を連ねるもう一人の異端者、コードネーム・ユダ。本名・君島千景きみしまちかげ
僕らと同じくカルチェラタンに縄張りを持つチーム。一見おちゃらけた人たちだけど、性格は非常に好戦的。特に千景くんは、ここカルチェラタンに彗星のように現れ、新入りへの洗礼ともいえるありとあらゆるチームからの攻撃を、たった一人でことごとく返り討ちにしてきた。今じゃ麝香鼠じゃこうねずみと猫娘、実力派の二人の仲間も得て、彼らと互角に渡り合えるチームはごく一握りだ。だけど僕らは、そんな彼らとも闘わなくてはならない。

──いいよ。どこからでも、かかっておいで。
僕はこの天蓋の下から一歩たりとも足を踏み出さずに、きみたちを退ける。

麝香鼠

へえ、この狭いテナントのど真ん中、その妙な天蓋の下に偉そうに構えたまま動くつもりもねえってか?余裕だねえ。そんじゃま、遠慮なくッ!(嵐に向かって突進)

猫娘

あっ、馬鹿……!

千景

あーあー。

◆麝香鼠の足元で爆発が起こる。

麝香鼠

っ!?なにィッ!?(跳び退く)

ああ、そこ、危ないよ?爆弾狂の白熱灯さんから調達した新作の起爆薬を、昨日のうちに仕込んでおいたから。

麝香鼠

んだと!?

白熱灯さん、新作の試験を最高のコンディションでできるって喜んでたよ。麝香鼠さんの動体視力と瞬発力がなかったら、足が一本吹っ飛んでたね。白熱灯さんにもいい報告ができそうだよ。あなたの新作の出来は、今回も抜群でしたって。
だけどもう少し、広範囲に威力が及んだ方がいいかな。

麝香鼠

あンのネクラッ……!
新作の試験に使わせてやるって言やあ強い奴にはホイホイ釣られやがって!

それに、今あなたが踏んだ起爆薬だけじゃない。このテナントのいたるところに、罠を仕掛けてある。無傷で僕のところまで辿り着けますか?肉体派の麝香鼠さん。

麝香鼠

くっそ!

猫娘

あははっ、ネズミかっこわるーい!
あんな挑発、罠に決まってるのに!
猛獣かたなしだね!あっ、猛獣じゃなくてただの小動物だったかー!
ネズミと旅人くん、相性最悪ー!

麝香鼠

うるせえぞ外野ァ!

千景

単純な身体能力だけなら、ネズミは俺より上なんだけどねえ。肉弾戦だったらカルチェラタンでもトップクラス。だけど、嵐くんみたいな頭脳派とやるには向かないね。ま、いつものことなんだけど。なんせネズミは筋金入りの馬鹿だから。

麝香鼠

千景、お前まで……!

猫娘

いいから役立たずは下がってなよー!次あたしの番!

麝香鼠

役立たず……!?

千景

適材適所だよ、ネズミ。ここはひとまずネコに任せときなって。
お前一人で嵐くんの相手は無理。一生かかっても無理。

麝香鼠

……!………!!(絶句)

猫娘

射的をやらせりゃ百発百中!猫娘ちゃん、いっきまーす!

千景

飛び道具、特に射撃の腕なら、ネコの右に出る者はいない。
近づけないなら、近づかないだけだ。

猫娘

さってと、どこから仕留めてあげようかなあ?旅人くん♪

嵐(M)

彼らとは、既に幾度となく手を合わせてきた。それぞれの攻撃傾向も把握済み。
勿論、猫娘の遠距離攻撃にも手は打ってある。
僕が動くまでもなく——、

猫娘

そりゃそりゃそりゃあっ!(連射)

っふ、(笑う)

◆銃弾、全て地面に叩き落とされる。

猫娘

……へ?

麝香鼠

何が……起こった?

千景

銃弾が全部、あの天蓋のカーテンに弾き返されたように見えた、ね。

さすがだね千景くん、大正解。
ダイラタンシー現象って知ってる?身近な例でいうと……そうだね。適量の水に片栗粉を加えてしばらく混ぜる。その液体を握ると固体のように手の中で硬くなり、握り潰せばヒビすら入るようになる。だけど握るのをやめると再び液体状になり、指の間から流れ落ちるんだ。

麝香鼠

ああ?なんでいきなり片栗粉なんだ?食いもんの話なんか今はどうでもいいだろうが。

猫娘

いいからあんたは黙って人の話を最後まで聞きなさいよ!

麝香鼠

チッ。

この天蓋のカーテンは、その技術を応用した素材でね。細かいセラミックの粒子を溶かし込んだ液体を、ケブラー素材の上に塗布してある。普段は柔らかい布みたいな感じだけど、銃弾のような強い衝撃を受けた瞬間は弾を変形させられるくらいに硬くなり、その運動エネルギーが消費されると再び柔軟性を取り戻し、弾を跳ね返すことができる。
……実際目の前で効果が証明されるまで、僕もちょっとドキドキしちゃったけどね。この布、薬品マニアの群青さんに借りたんだ。何かの役に立つかもって試しに作ってみたんだって。これすごいね、こんなに薄いのにほんとに銃弾跳ね返しちゃうなんて。

麝香鼠

今度はあのひねくれジジイかよ……!あいつまで手懐けてやがったのか。
ったく、どいつもこいつも……!

猫娘

つまり、遠距離からも攻撃不可能ってこと……!?

そういうこと。

猫娘

そんなあ!ってことは、今回あたしも出る幕ないじゃない!

麝香鼠

っは!大口叩いといてざまあねえなあ。チ・ビ。

猫娘

ああん!?

──というわけで、今回は防護策に徹してみました。どうだったかな?

猫娘

むー……なんかずるーい!

麝香鼠

卑怯じゃねえか!てめえは他人の力を頼って作り上げた安全圏の中にいて、こっちは手も足も出せやしねえ!これじゃ勝負にならねえよ!

あはは、ごめんごめん。いつもローズに働かせてばっかりだから、たまには僕も何かしてみようかなって、僕なりにいろんな人に訊いて勉強したんだ。まあ、結局どれもこれも僕の力とは言い難いものになっちゃったけど……。だけど勿論、これじゃあ勝負がつかない。そろそろこっちからも、仕掛けさせてもらうよ……っと。(立ち上がる)

猫娘

あーあ。つまりあたしとネズミは、最初から旅人くんの掌の上で踊らされてたってわけかー。

麝香鼠

旅人が、動いた……。あいつが出るのか。

猫娘

──そうだね。旅人くんは決して自ら武器を持たない。それでもカルチェラタンでの抗争に勝ち続ける。何故なら彼は最強の人形の主だから。そこで、ついた異名が……。

麝香鼠

〝人形使いの旅人〟……ってか。

千景

俺の番みたいだね。(進み出る)

嵐(M)

そう、僕自身には闘う力はない。僕の手にあるのはただ二つ。戦略と人形のみ!

ローズ!

ローズ

ああ!行くぞ……ユダ!(千景に向かって駆ける)

麝香鼠

なにィッ!?このテナントにはいたるところに罠が仕掛けてあるんじゃなかったのか!?なんであいつはこの危険地帯の中を自由に動き回れる!?それともあれは俺の動きを止めるためのフェイクだったのか!?

ローズ

人知を超越したわらわの力、受け止めきれるか?はあぁぁあっ!(千景にパンチ)

千景

おっと!(受け止める)

フェイクじゃないよ。知ってるでしょ?ローズは人形。このテナントに仕掛けた罠の位置は完璧に把握してる。それを正確に避けて千景くんに近づくことなんて、造作もない。

ローズ

ふっ。さすがにこの程度の攻撃、貴様には通用しない、か……!

千景

っあは、これを〝この程度〟とはね。
相変わらず女の子とは思えないすっげーパンチ、感心するよ。
でも、こうしちゃえば……!

ローズ

なっ……!?

千景

つっかまーえた♪

猫娘

あぁーっ!千景のやつ、ローズちゃんを抱き締めてる!くぅ〜〜〜っ、羨ましい!

そこなの!?

ローズ

くっ……離せ!穢らわしい!

千景

離せって言われて離す馬鹿がいると思う?ほーら、おとなしくしてないと、このナイフがお前の腕の一、二本くらい、サクッと切り落としちゃうけど〜?

ローズ

ッ……!

ローズ!

千景

ネズミぃー♪

麝香鼠

!!、ラジャ!(嵐に向かって駆ける)

えっ?

麝香鼠

食らいやがれ、おらあぁっ!(拳を振り抜く)

うわあっ!(天蓋から転がり出る)

麝香鼠

はっ。さっき散々俺をおちょくってくれた仮、返すぜ?旅人さんよお!

な……!どうやって無傷でここまで!

麝香鼠

俺の動体視力、舐めんなよ?さっき人形が通った道は罠が仕掛けられてない、すなわち安全圏だ。それを覚えておくくらい、馬鹿の俺でもできんだよ。

猫娘

更に人形であるローズちゃんの動きを完璧に再現する身体能力。この二つを併せ持つ、ネズミだからこそできる技だね。そして、旅人くんがその場所から一歩を踏み出したということは!

!!

猫娘

(銃を構える)あたしにも出番はあるってことだ♪

……ま、丸腰相手に二人掛かりなんてそれこそ卑怯じゃないか!

麝香鼠

そうでもないぜえ?あんたが仕掛けてくれた罠のおかげで、俺はさっきあの人形が示してくれた安全圏の中からしかあんたを攻撃できねえ。でもってネコの身体能力じゃ、安全圏がわかったところであれ以上接近することはまず不可能。ハンデは十分だと思うんだけど?

ていうかそもそも僕自身に闘う力は……!

猫娘

カルチェラタンの一闘技者である以上、そんな言い訳通用しないって、知ってるよねえ?
あたしたちはこれに、命懸けてるんだから、さあっ!(発砲)

ッ……!(跳び退くが、弾が掠る)

麝香鼠

お?なんだあんた、ただこすっからいだけの奴かと思ってたら、意外とすばしっこいじゃねえか。ネコの銃弾をかすり傷程度で済ますなんて。

猫娘

おっかしいなー。がっつり太もも狙ったはずなんだけどー?

っは、必死だよ……!僕、学校の授業で体育が一番苦手なんだ!

麝香鼠

ぎゃっははは!天下の旅人サマが、体育苦手たぁお笑いぐさだな!ふっ!(攻撃)

く……っ!(避ける)

猫娘

しかも、このテナントは旅人くん自身が仕掛けた罠だらけ。
今の状況に追いやられてしまった以上、身体能力の低い旅人くんも当然ながらその罠に動きを大幅に制限されることになる。

麝香鼠

自分で自分の首締めちまったなあ?
俺ぁ馬鹿だが、小賢しいってのも考えもんだ、なァッ!(攻撃)

ぐゥッ!(急所は避けるが、食らう)

猫娘

あはっ、急所は避けたね!本当にすばしっこいなあ。
じゃあ、これはどうかなあっ!?(発砲)

うあっ……!(掠る)

猫娘

うーん、またかすり傷かあ。気に食わなーい!

千景

おーいお前ら、嵐くん殺すなよー?
俺らが勝っても、まだ大事な用が残ってるんだからさー。

猫娘

わかってますって♪

麝香鼠

殺さない程度にいたぶって、持ってる情報洗いざらい吐かせてやんよォ!(攻撃)

がはッ……!(攻撃が腹に入り、膝を突く)

猫娘

おおー!クリティカルヒーット!やるじゃん脳筋ー♪

麝香鼠

へっ、リーチにさえ入っちまえばこんくらい朝飯前よ。

ローズ

嵐!……くそっ、離せ!(もがく)

千景

あーもう暴れないでよ、うざったいなあ。離せって言われて離す馬鹿がいると思う?
人形は人形らしくじっとしてなって。

ローズ

……!、ユダ!裏切り者の名を持つ者!貴様ら嵐に手を出して、ただで済むと思うな!
嵐を傷つける者は、誰であろうとわらわが許さん!
ことに我が主を裏切ったユダ、貴様は必ずや、わらわがっ……!

千景

!!、……っあは。人形のくせに獣みたいな目ぇしちゃって、ムカつくなあ……!もーいいよ、離してあげる。どうでもよくなっちゃった。(ローズの襟首を掴み上げる)

ローズ

な!?足が、宙にっ……!

千景

軽いもんだね、こんなおちびさんの人形なんて。そーらよっと!(ローズの体をぶん投げる)

ローズ

うあぁっ!(壁に叩きつけられる)

猫娘

ひえっ!?ロ、ローズちゃんが飛んでった!?

麝香鼠

うお!ビビった。千景!こっちにもちったあ気ィ遣え!

猫娘

そーだよ!ローズちゃんに乱暴するなって、何度言ったらわかるのー!

麝香鼠

だからお前はそこじゃねえよ!

千景

そのポンコツ、返すよ嵐くん!

!!、ローズ!大丈夫!?(駆け寄る)

ローズ

……っユダめ、相変わらず荒っぽいことをする……!わらわは、問題ない。
体もどこも、壊れてはいないようだ。

千景

ふーん?さすが人形、頑丈だねえ。結構本気でぶん投げたんだけど。っあは、やっぱり人間の俺らとは大違いだ。形だけ真似て作られただけの〝紛い物〟は。

!!、千景くん……!たとえきみでも、ローズを馬鹿にするのだけは許さないよ。

千景

たとえきみでも?よく言うね。嵐くんと俺とは、〝貝の火〟を奪い合う敵同士じゃないか。

……!

千景

今日は引くよ、嵐くん。なーんか興醒めしちゃった。どうも気に食わないんだよねえ、その人形。ほらさっさと行くよ、お前ら。

猫娘

ちぇっ。せっかくこれからいいところだったのにー。

麝香鼠

俺らのボスは相変わらず気まぐれだよなあ。なんつーか、気分屋っつーの?
俺、たまにあいつの行動理解できないときあるわー。

猫娘

ちょ!ぶん殴られるよ、ネズミ!

麝香鼠

うるせえ、チビネコ。

猫娘

な!またチビって言ったなー!人が気にしていることをー!

麝香鼠

ほんとのこと言って何がわりーんだよ。

千景

はいはい、仲間割れは他の奴らの見てないとこでやろうなー。

猫娘

(同時に)はーい。

麝香鼠

(同時に)へーい。

◆千景・猫娘・麝香鼠、立ち去る。

ローズ

……よくわからんが、とにかく行ったようだな。
(はっとして)嵐、傷は痛むか?……酷いものだ、丸腰相手に二人がかりで、卑怯な真似を。さあ、すぐに医務室に。人間は、すぐに壊れるからな。

うん、そうだ……ね。

嵐(M)

千景くんの不可解な行動のおかげで、その日、僕はなんとか命拾いした。千景くんが何を考えているのかわからない。何やら必要以上に、僕に固執しているらしい理由も。
そう、これが僕らの、廃百貨店・カルチェラタンでの非日常という名の日常。
カルチェラタンのどこかに隠された、持ち続けた者に光をもたらすという〝貝の火〟。全てが謎に満ちたそれを求めて、闘技者たちは今日も抗争をする。
このゲームがどうしてはじまったのか、誰も知らない。

猫娘

ねえ千景ー。ネズミも言ってたけどさ、ほんとにどうしてあそこで急に引くなんて言い出したの?あのまま続けてれば、旅人くんを抑えられたかもしれないのに。

麝香鼠

それにあいつ、他人の力ばっかり頼りやがって、自分じゃ何にもできやしねえ。あいつの唯一の戦闘手段の人形使いってのもそうだ。何の力もないくせに、あの人形が付き従ってるせいで、どいつもこいつも揃いも揃ってあいつを畏怖してる。気に食わねえんだよ。

千景

果たして本当にそうかな、ネズミ?

麝香鼠

?、どういうことだ?

千景

昨日嵐くんの縄張りを攻めた時は、あんな仕掛けは一切なかった。
つまり彼はたった一日のあいだに、様々な人の協力を得て、彼なりの戦場を作り上げたってわけだ。それに最強の人形とやらも、どうやら嵐くんに大層ご執心のご様子。
戦略と人形しか持たない彼が、短時間であれだけの舞台を整えられる人望を備えている。
それも立派な実力だと、俺は思うけどね。

麝香鼠

……。あんたはちょっと、旅人を買い被り過ぎだと思うがね。

千景

あはは、そうかもね。俺はちょっと、いやだいぶ、嵐くんに入れ込んじゃってるのかも。

猫娘

その発言はなんか誤解を招くよー、千景ー……。

千景

あっはははははは!

麝香鼠

千景……やっぱりよくわかんねえ奴だ……。

千景(M)

嵐くん。俺は諦めないよ。きみの手に貝の火は、絶対に渡らせない。
そう、きみにだけは、絶対にね。

to be continued.