月面歩行

企画:Familiar Company
作者:饗庭璃奈子(あいばりなこ)
比率:♂2♀2
時間:約60分


〝僕はもう、あのさそりのように 本当にみんなの幸いの為なら
 僕の身体なんか 百ぺん焼いてもかまわない——〟

自分の未来に何の理想も描けず、怠惰な日々を送っていた高校生、貞一郎。そんな貞一郎の前に現れたのは、心臓に病を患いながらも懸命に生きる少年、雪彦だった。
二人で見上げた流星群、語らったアポロ11号の夢、あの時にふれた儚げなのどの尖り。きみと過ごしたひととせを、僕たちは決して忘れない。


※Skype上での声劇・ニコニコ生放送などで、ご自由にお使い下さい。企画(ボイスドラマ)用書き下ろし台本のため、作品として公開することはお断りいたします。

但馬雪彦たじま ゆきひこ
重い心臓の病を患っている。十までもたぬと言われた体をだましだまし、どうにか今日まで生きてきた。いつも笑顔で飄々としている。
春風亭に越してきたのは昨年の春。秀才と呼ばれた兄に憧れ、兄が通っていた私立の名門校・桜田高校に入学したいという本人の強い希望により、病弱な体をおして無事に受験にも合格した。両親は、雪彦が明日を生きられるかどうかもわからぬ身であることを熟知した上で、できる限り雪彦の望みを叶えてやりたいと考えている。
桜田高校一年生。僕/貞一郎/奈々生ちゃん/ほとりさん
吉野貞一郎よしの ていいちろう
春風亭の下宿人の一人。父親は医者で、金持ちのボンボン。厳しい家庭環境に育ち、元来の頭のよさも相まって受験戦争にも勝ち残ったが、当人は非常に素行が悪く、クラスでは些か浮いた存在。医者の道を継がせようとする父親に対しても反抗的である。
特に高二の頃はやさぐれていて、将来のことをろくに考えもせず怠惰な日々を過ごしていた。雪彦と出会い、心臓を患いながらも懸命に生きるその姿に、少しずつ心動かされていく。
桜田高校三年生。俺/雪彦/奈々生/ほとり
島村奈々生しまむら ななお
春風亭の下宿人の一人で、貞一郎のクラスメイト。天真爛漫な表向きとは裏腹に、聡明な思慮深さをも併せ持つ少女。
下宿人であると同時に、甘味処・春風亭でバイトをしており、店の看板娘でもある。柄の悪い貞一郎には苦手意識を抱いていたが、気丈な性分で自分の意見は物怖じせずにきちんと言うタイプ。雪彦との出会いで確実に貞一郎に変化の兆しが訪れていることも感じ取っている。上司でもあるほとりは憧れの姉貴分であるらしい。
桜田高校三年生。私/雪彦くん/貞一郎くん/ほとりさん
古河ほとりふるかわ ほとり
春風亭の大家で甘味処の店長。雪彦の母とは旧知の仲で、雪彦の先がもう長くないことを知った上で雪彦を受け入れることを決めた。
サバサバとした気だてだが、姉御肌で面倒見がよく、ひねくれ者の貞一郎もほとりのいうことだけは渋々ながらも聞き入れる。一見猪突猛進に行動しているように見えて、実は誰よりも下宿人一人一人のことを考えている、心優しい女性。貞一郎と雪彦を引き合わせたのにも、一抹の思惑がある。年齢については触れてはいけない。
あたし/雪彦くん/貞一郎/奈々生ちゃん
アナウンサー
テレビのアナウンサー。声劇でやる場合はほとりと被りか飛ばし推奨。
001 雪彦

……っ!(心臓発作を起こして倒れる)

002 貞一郎

……雪彦ゆきひこ

003 奈々生

雪彦くん!

004 ほとり

奈々生ななおちゃん、すぐに救急車を!

005 奈々生

はいっ!

006 雪彦

(荒い息遣い)

007 貞一郎

雪彦……おい雪彦、しっかりしろ!雪彦!

◆SE:救急車

008 貞一郎(M)

火葬された遺骨には、のどぼとけが残る。禅を組む仏の姿をした、小さな骨が残されるという。その俗説は、人が都合のいいようにでっちあげた偽りなのだと、いつだったか、医者である父が言っていた。
曰く、のどぼとけというものは、のどの中ほどにある甲状軟骨によって形成される隆起である。しかし軟骨であるがゆえに、火葬の際の温度には耐えきれず、窯から遺骨が引き出されるころには、跡形もなく焼き消えてしまうのだという。
ところが実際にして、仏の姿をした骨というものは確かに残る。正体はのどぼとけとは全く関係のない、第二頸椎だいにけいついというものであるらしい。なんてことはない、背骨の欠片だ。

その話を聞かされたとき、俺は、へえ、と感心するのと同時に、些か興ざめしてしまったのを覚えている。医学というのは何でも赤裸々に暴いてしまって、時に随分と野暮なことをするものだ。ダイニケイツイだとかいうよくわからないものより、指を伸ばせばふれることのできるこののどの尖りが、その名の通りの姿を取ってあとに残るというほうが、よほど殊勝な話ではないか。
しかし実際それは、炎のうちに溶けて消えてしまうという。まるでふれたそばから熱に形を失くし、消え入ってしまう雪のように。

だが俺は、生涯忘れることはないだろう。あの時にふれた雪彦ののどの尖り。今にも弱く羽ばたいてどこかへ飛んでいってしまいそうな、あの儚げな感触を。

***

009 貞一郎(M)

雪彦との出会いは、春だった。町をぶらつこうと玄関に立ったところ、ちょっと前までは影も形もなかった少年が、庭先の階段の下に、忽然と現れていたのである。
はじめ、俺はぎょっとした。漆黒の髪に映えて、その肌があまりにも、透き通るように蒼白く、この世の者ではならざるかのような雰囲気を纏っていたからである。もっと端的に言ってしまえば、幽霊か何かだと思ったのだ。
しかしよくよく見れば、少年が着ている黒い詰襟の学生服は、俺の通う桜田高校のものである。小柄で線の細い体格からして、おそらく学年は俺より下であろう。こちらをちらとも見ようともせず、惚けたように何かを見上げているばかりの少年を、俺は不審に思った。

010 貞一郎

……?
おい、お前そこで何してる。

011 雪彦

——梅が、

012 貞一郎

……うめ?

013 雪彦

梅の花が、とても綺麗に咲いていたものだから。

014 貞一郎

その木は、梅なのか。

015 雪彦

(はじめて貞一郎を見上げる)きみのうちじゃあないのかい?

016 貞一郎

俺のうちじゃあない。
……いや、だけどまあ、今はここに住んでるんだから、俺のうちのようなものか。
だからそいつは俺の木だ。
あまり気安く見るんじゃあない。

017 雪彦

……っふふ。

018 貞一郎

何笑ってやがる。

019 雪彦

いや、ごめんね。面白い人だなあと思って。

020 貞一郎

ああ?

021 雪彦

きみはいい人なんだね。

022 貞一郎

どうしてそうなる。

023 雪彦

花を見る、瞳が優しかった。
名前は知らなくても、この木が好きなんだね。
だったらきみは、いい人だ。

024 貞一郎

……勝手なことを、

025 雪彦

出かけるところだったんだろう?
邪魔をしてすまなかったね。
それと、そういう口の利き方は、あまりきみには似合わないんじゃあないかな。
それじゃ、僕は先を急ぐから。

026 貞一郎(M)

言うや否や、そいつはぱっと身を翻し、どこかに消えてしまった。妙な奴だ、としか、その時には思わなかった。もう二度と会うこともないだろうと思っていた。
ところが思いも寄らぬ形で、そいつは再び俺の前に姿を現したんだ。

027 ほとり

はいみんな、しゅうごーう!

028 奈々生

ほとりさん?どうしたんですか?

029 ほとり

いいからいいから!ほら、貞一郎ていいちろうも早く来る!

030 貞一郎

んだよ、ほとり。めんどくせえな。

031 奈々生

ちょっと、貞一郎くん!
お世話になってる大家さんに向かって、そんな口の利き方ないでしょ!

032 貞一郎

うるせえ。

033 ほとり

あはは、いいのいいの、奈々生ちゃん。
こいつにはあとできつーい一発お見舞いしとくから。

034 貞一郎

けっ。

035 奈々生

はーい(いい笑顔)

036 貞一郎

んで?たった二人の下宿人集めて、一体どういう了見だ?

037 ほとり

ふっふーん。今日は二人に、新しい家族を紹介しまーす!

038 貞一郎

ああ?

039 奈々生

新しい、家族?

040 ほとり

そう!
今日からこの春風亭しゅんぷうていに下宿することになった、但馬雪彦たじまゆきひこくんでーす!
さ、雪彦くん、入って入って!

041 雪彦

——はじめまして。但馬雪彦です。

042 奈々生

わあ、綺麗な男の子……! はじめまして、雪彦くん!私は島村奈々生しまむらななおです。

043 貞一郎

(被って)あーっ!?お前!?

044 奈々生

へ?

045 雪彦

久しぶり……でもないね。前に会ったのは、あの庭の梅が満開だった頃だから。

046 ほとり

あれあれ、何?もしかして二人、知り合い?

047 貞一郎

(雪彦に)まさかお前、最初から知って……!

048 雪彦

いいや。あの日はたまたま新しく入る学校の説明会で、ここの前を通りすがったんだ。僕が入ることになっていた下宿だなんて、ちっとも知らなかったよ。
表に、甘味処の暖簾が出ていたしね。

049 奈々生

うん!春風亭はね、昼間は甘味処を営みながら、私たちみたいな学生に部屋も貸してくれてるの。私は下宿生だけど、学校のあとは甘味処でバイトもしてるんだ。
ほとりさんは、春風亭の大家さんで、店長でもあるんだよ。

050 雪彦

へえ、そうなんですね。

051 奈々生

あっ、ここでは私と貞一郎くんには敬語、いらないよ。
ほとりさんも、みんな家族みたいなものだから。

052 雪彦

はい——いや、うん。よろしくね、奈々生ちゃん、貞一郎さん。
それに古河ふるかわさんも、これからどうぞよろしくお願いします。

053 奈々生

こちらこそよろしく、雪彦くん。

054 ほとり

いやだ、古河さんなんて他人行儀に呼ばないでちょうだい。ほとりでいいわ。
でもまあ、何だかよくわからないけど、貞一郎と雪彦くんが顔見知りだっていうなら話が早いわね。貞一郎、雪彦くんはね、吉野よしの先生の患者さんでもあるのよ。

055 貞一郎

は!?親父の!?

056 ほとり

世間って狭いわよねー。
主治医の息子とその患者さんが、こんなところで巡り合わせるなんて。

057 奈々生

貞一郎くんのお父さんって、確かお医者様の……。
雪彦くん、どこか悪いの?

058 雪彦

ああ、大したことはないんだ。
ちょっと心臓に持病があって。

059 奈々生

えっ……。

060 ほとり

……。

061 雪彦

やだなあ、そんな顔しないでよ。
そんなに悪かったら、僕は今ここにはいませんって。
現に受験にもちゃんと合格して、この春から桜田高校に入学することが決まってるんだから。

062 奈々生

あ、雪彦くんも桜田高校なんだね。私と貞一郎くんも、桜田高校なんだ。
この春から三年生!クラスも一緒なの。ね、貞一郎くん。

063 貞一郎

……気に入らねえ。

064 奈々生

は?

065 雪彦

066 貞一郎

気に入らねえって言ってるんだよ、こいつの全部。

067 奈々生

なっ……貞一郎くん!いきなりそんな言い方ないでしょ!

068 貞一郎

うるせえ奈々生!お前には関係ねえだろ!
……ああ、苛々する。とにかく俺はもう、部屋に戻るからな!
寝る!

069 ほとり

あらあら。

070 奈々生

ちょっと、晩ごはんは!?

071 貞一郎

いらん!

072 ほとり

ほっときなさい、奈々生ちゃん。
——それにこれも貞一郎には、きっと必要なことだから。

073 奈々生

え?

074 雪彦

嫌われちゃいましたね。

075 ほとり

ごめんねえ、雪彦くん。あいつもちょっと、訳ありでね。
でも、あいつのあれはただのあまのじゃくなのよ。素直になれないっていうか。
きっと今頃部屋で罪悪感に苛まれてると思うわよー。

076 雪彦

そうでしょうか。

077 ほとり

そうそう、そうに決まってる!
だから雪彦くんもあいつの言うこと気にしちゃだめよー。
さ、そろそろ晩ごはんにしましょうか!
奈々生ちゃん、準備手伝って!

078 奈々生

はーい!

079 雪彦

それじゃあ僕も……。

080 ほとり

いーのいーの!
今日は雪彦くんの歓迎会でもあるんだから。
一人欠員が出ちゃったけどね。
雪彦くんは座ってテレビでも見ててちょうだい!

081 雪彦

あ、はい……。

◆ほとりと奈々生、行ってしまう。雪彦、ぼんやりとテレビを見ている。

082 アナウンサー

特集です。昨年夏に月面着陸に成功したアポロ十一号。その今後を、お伝えいたします。アメリカのアポロ計画が立案されたのは1961年。時のケネディ大統領の声明により、1960年代中に人間を月に到達させることを目標に開始されました——(フェードアウト)

***

083 貞一郎

……(雪彦の部屋の前で、ドアをノックしようとしたまま固まっている)
〜〜〜!(ノックするか否か逡巡して唸っている)
っ!(思いきってドアをノックしようとする)

084 雪彦

……貞一郎さん?

085 貞一郎

うわあっ!!

086 雪彦

何、してるの?

087 貞一郎

急に現れんじゃねえ!びっくりするだろうが!

088 雪彦

急にっていうか、さっきからずっとここにいたんだけど……。
そこ、僕の部屋だけど、僕に何か用?

089 貞一郎

……。
とりあえず、その貞一郎さんってのやめろ。
気色わりい。

090 雪彦

あ、うん……貞一郎くん?

091 貞一郎

くんもいらん!……貞一郎でいい。

092 雪彦

……っふふ、わかった。

093 貞一郎

……ふん。

094 雪彦

それで?僕に用があったんでしょ?
こんなところで立ち話も何だし、よかったら中、入る?

095 貞一郎

あ、いや、大した用じゃねえんだ。すぐに済む。
えっと、その、だな……、

096 雪彦

097 貞一郎

さっきはその……悪かった。
親父の名前を出されたから、ついカッとなってあんなこと言っちまった。

098 雪彦

吉野先生の?

099 貞一郎

……俺は親父があまり好きじゃない。

100 雪彦

どうして?

101 貞一郎

親父は俺に、無理矢理医者の道を継がせようとする。
高校にだって、俺は本当は行きたくなかった。
中学を出たら、すぐに職に就きたかったんだ。
早く一人前になりたかった。

102 雪彦

他に何か夢があるの?

103 貞一郎

……。
いや、特にない、けど。

104 雪彦

……ふっ。

105 貞一郎

なっ……てめえ、今笑ったろ!

106 雪彦

だってなんだかきみって、随分粋がっているんだもの。
きみにそういうのって、なんだか似合わないよ?
本当はとてもいい人なのに。

107 貞一郎

勝手なこと抜かしてるんじゃねえ!
あとそのきみってのもやめろ!体が痒くなる!

108 雪彦

わかったよ——貞一郎。

109 貞一郎

〜〜〜っ!
あーあ!まためんどくせえのが一人増えちまったな!

110 雪彦

まあそう言わずに、一つよろしく頼むよ、貞一郎。

111 貞一郎

あ〜〜〜っ、貞一郎貞一郎うるせえんだよ!

112 雪彦

ぷっ……あはははははは!

113 貞一郎

笑うんじゃねえ!

114 奈々生

——あ、貞一郎くんと雪彦くん……。
仲良さそうにお話ししてる。

115 ほとり

……ふふ。

***

116 奈々生(M)

それから数日が経ち、雪彦くんの入学式の日がやってきました。私たち在校生は、新入生を出迎える、それだけのために登校するので、正式に授業がはじまるのは明日からです。貞一郎くんはそんなものは面倒くさいとしきりにさぼりたがったのですが、

117 ほとり

一つ屋根の下に暮らす家族の入学式なんだから、あんたもちゃんと行きなさい!

118 奈々生(M)

と、半ばほとりさんに追い出されるようにして、三人揃って春風亭を出たのでした。
私と貞一郎くんは学年もクラスも下宿先も同じだけど、私が顔を洗ったり朝ごはんを食べたりしているうちに、いつも貞一郎くんが一人でさっさと学校に行ってしまうのが常だったから、一緒に登校するのなんてこれがはじめてのことでした。学校まで続く、満開の桜並木の道を、私と雪彦くんは肩を並べて、貞一郎くんはその少し先を、付かず離れず歩きました。

119 貞一郎

……。

120 奈々生

へえ、じゃあ雪彦くんはお兄さんに憧れて桜田高校に入ったんだね!

121 雪彦

うん。

122 奈々生

素敵なお兄さんだったんだ?

123 雪彦

兄さんは努力家で、勤勉な人だったよ。
それだけじゃなく、とても優しい心を持った人で、近所の子供たちからも好かれていたし、幼い頃から床に伏せっていることの多かった僕のこともいつも気にかけてくれてね。僕にとっては自慢の兄だったよ。
今は院も卒業して独り立ちしてしまったけど、僕にとって今でも兄さんは憧れの存在なんだ。だから兄さんと同じ、名門の桜田高校に入学することは、ずっと僕の夢だった。今日、その夢を叶えることができて、本当に嬉しいんだ。

124 奈々生

雪彦くんはお兄さんが大好きなんだね!

125 雪彦

っふふ、うん。

126 貞一郎

…………。

127 奈々生

ちょっとお、貞一郎くんも話題に参加しなさいよ!

128 貞一郎

なんで俺が喋らにゃいかん!
ていうかそもそも、ほとりに言われなきゃ誰がお前らと一緒に登校なんかするか。

129 奈々生

ふーん?貞一郎くんはなんだかんだでほとりさんのいうことだけはきくんだよねえ。こんな不良も手懐けちゃうなんて、さっすがほとりさん!

130 貞一郎

俺は不良じゃねえ!

131 雪彦

そうなの?

132 貞一郎

お前ら〜〜〜っ!

133 雪彦

っふふ。

134 奈々生

でも確かに貞一郎くんって、不良って感じではないかも。
制服もちゃんと着てるし、授業にもちゃんと出るし、成績もまあそこそこいい方だし?
貞一郎くんって、なんでそんなにぐれてるの?
多感なお年頃〜ってやつ?

135 貞一郎

ぐれてねえよ!
あと気色悪いことも言うな!
……ただいろいろと、めんどくせえだけだよ。
〜〜〜あーもうっ、お前ら歩くのとろすぎ!
俺先に行くからな!

136 奈々生

あっ、ちょっとお!
ほとりさんにちゃんと学校まで一緒に行くようにって言われたでしょ!
待ってってばあ!

137 奈々生(M)

貞一郎くんと雪彦くんと三人揃って学校に行くのなんて、これが最初で最後だと思っていました。だけど、実際そうはならなかったのです。
最初はほとりさんに尻をはたかれるようにして渋々連れ立っていた貞一郎くんも、いつしかあまり苦い顔をしないようになり、桜がすっかり散ってしまう頃になると、私たちは一緒に登校するのが当たり前になっていたのでした。

138 貞一郎

それじゃあお前、今も週一で病院に通ってるのか?

139 雪彦

うん。吉野先生がいい病院を紹介して下さったから。

140 貞一郎

……だから親父の話はするなって言ってんだろ。

141 雪彦

あ、ごめん。

142 奈々生

でもじゃあ、雪彦くんがたまにふらっと姿を消しちゃうのは、病院に行ってたからなんだね。

143 雪彦

うん、まあね。

144 貞一郎

……。

145 奈々生

? 貞一郎くん?どうかしたの?

146 貞一郎

その、お前……大丈夫なのか?病気。

147 雪彦

……!クスッ。

148 貞一郎

なっ!何がおかしい!

149 雪彦

いや、別に……貞一郎って意外と心配性なんだなって思っただけ。
前にも言ったでしょ、そんなに悪かったら、僕は今ここにはいないって。
そんなに心配しなくても大丈夫だよ。でも、ありがとう。

150 貞一郎

誰が心配なんかするかっ!

151 奈々生

貞一郎くんでしょ?

152 雪彦

貞一郎だね。

153 貞一郎

〜〜〜お前らぁーっ!

154 奈々生(M)

貞一郎くんと雪彦くんと過ごす時間は、私にとってとても楽しい時間になっていきました。それまで貞一郎くんとろくに会話もしたことがなかったのに、不思議です。そして、楽しい時間は過ぎるのもあっという間です。
いつしか桜の木は青々と葉を茂らせ、梅雨に入り、夏が近づいてきていました。

***

155 ほとり

あ、奈々生ちゃん。

156 奈々生

ほとりさん。何か用ですか?

157 ほとり

うん、ちょっとね。もう寝ちゃうならいいんだけど。

158 奈々生

いえ、まだ大丈夫ですよ。

159 ほとり

そう?じゃあちょっと頼まれてくれるかしら。
雪彦くんにこれ、持っていってあげてくれる?

160 奈々生

毛布と、珈琲……?
雪彦くん、どこにいるんですか?

161 ほとり

縁側で星を見てるわ。

162 奈々生

星を?

163 ほとり

ほら、今夜は流星群が観測できるって、テレビで言っていたでしょう。
雪彦くん、星とか宇宙とか、大好きなのよ。

164 奈々生

へえ、そうだったんですね。

165 ほとり

だから、ね、お願い。
今の時分でも、夜はまだ肌寒いと思うから。
奈々生ちゃん、行ってあげて。

166 奈々生

……はい!わかりました。

167 奈々生(M)

それは、とても静かな夜のことでした。
三和土たたきに揃えた靴を突っかけ、玄関先の梅の木の脇を通って庭の方へ回り込んだ私は、最初、雪彦くんに声をかけるのを、思わず躊躇ってしまったほどでした。満天の星空を見上げる雪彦くんの横顔が、あまりにも、何か、焦がれるようなものだったからです。

168 奈々生

……!!、……。
………雪彦くん。

169 雪彦

奈々生ちゃん。

170 奈々生

邪魔しちゃってごめんね。
でもほとりさんが、これを雪彦くんにって……。

171 雪彦

?、あ……。
……っふふ。ほとりさんも奈々生ちゃんも、春風亭の人たちはみんな本当に心配性だなあ。
(珈琲を一口啜って)……ありがとう。美味しいよ。

172 奈々生

淹れてくれたのはほとりさんだよ。

173 雪彦

持ってきてくれたのは奈々生ちゃんでしょ。

174 奈々生

……。
……隣、いい?

175 雪彦

勿論。

◆奈々生、雪彦の隣に腰を下ろす。暫し沈黙。

176 奈々生

……。
流れ星、見える?

177 雪彦

うん。今日が天気でよかったよ。
ここの星空はすごく綺麗だね。
僕のいた町の空は、もっと濁っていたから。
この町が、僕は好きだな。
奈々生ちゃんや貞一郎やほとりさんと、出会えた町でもあるし。

178 奈々生

そっか。よかった。

179 雪彦

奈々生ちゃんも僕の方ばっかり見ていないで、少しは星を見たら?

180 奈々生

ぇ、えぇっ!?私そんなに雪彦くんのことじっと見てた?

181 雪彦

うん、見てた。

182 奈々生

ご、ごめんなさい。

183 雪彦

あはは、いいからいいから、気にしないで。
それよりほら、また星が流れた。あっちでも、こっちでも。
本当に綺麗だ。

184 奈々生

……!!
わあっ……!すっごく綺麗……!

185 雪彦

ほら、ね?

186 奈々生

(無意識に)でも、雪彦くんも綺麗だったよ。

187 雪彦

え?

188 奈々生

あ……な、何でもない。

189 雪彦

っふ、へんな奈々生ちゃん。

190 奈々生

ご、ごめん……。

191 雪彦

——ねえ、奈々生ちゃんは知ってる?
流れ星の正体。

192 奈々生

流れ星の、正体?

193 雪彦

うん。流れ星の正体はね、宇宙を漂うたくさんの小天体、つまり塵なんだ。

194 奈々生

塵……。

195 雪彦

そう。それで、その塵が大気圏に突入する時、大気との摩擦熱で燃える光が、地上からは流れ星として見えるんだよ。星屑が燃え尽きる時の、たった一瞬の最期の光、それが流れ星なんだ。そしてその流れ星が、地上の人の願いを叶えてくれるという。
何だかロマンチックだよね。まるで賢治のさそりの火のようだ。
〝僕はもう、あのさそりのように 本当にみんなの幸いの為なら
 僕の身体なんか 百ぺん焼いてもかまわない——〟

196 奈々生

……。
……ね、雪彦くん!せっかくだから私たちも、流れ星に願い事しよっか!

197 雪彦

えぇ?っはは、急に言われても、なんにするか迷っちゃうなあ。

198 奈々生

互いに願いは一個ずつ!せーので、最初に見つけた流れ星に願うんだよ!
どう、雪彦くん。願いは決まった?

199 雪彦

んー……。
——うん、決まった。

200 奈々生

じゃあ、せーので最初に見つけた流れ星だからね。
いくよっ!せーの!

◆二人、暫し沈黙して空を凝視。

201 奈々生

……願った?

202 雪彦

……。
……うん、願った。

203 奈々生

……ふう!
何だかすごく集中しちゃった。
たった一瞬のうちに、三回も唱えなくちゃいけないんだもんね、願い事。

204 雪彦

奈々生ちゃんは何を願ったの?

205 奈々生

春風亭のみんなが、ずっと仲良しでいられますようにって。

206 雪彦

いい願いだね。

207 奈々生

雪彦くんは?

208 雪彦

僕は内緒。

209 奈々生

あ、ずるい。

210 雪彦

そうだね。
でも、どうしても叶えたい願いだから、口にしてはいけないような気がして。

211 奈々生

……!
そっか。そうかもしれないね。

212 雪彦

ごめんね。

213 奈々生

ううん、いいの。
——あのね。私本当は、ずっと貞一郎くんが怖かったんだ。

214 雪彦

貞一郎が?

215 奈々生

うん。だって貞一郎くん、いつも全人類が自分の敵、みたいな顔をしていたものだから。

216 雪彦

っふふ。確かに、そうかもね。

217 奈々生

でも、雪彦くんが春風亭に来てから、貞一郎くん、変わったよ。

218 雪彦

え?

219 奈々生

あ!……そっか。
雪彦くんと出会ったから、貞一郎くんは変わったんだ。

220 雪彦

僕は貞一郎に何もしてないよ。
一緒に過ごすのなんて、朝晩の食事の時と登校の時くらいだし。
そう、僕は貞一郎に何もできない。

221 奈々生

そうかもしれない。でも確かに、貞一郎くんを変えたのは雪彦くんだよ。
なんていうか、うまく言えないんだけど……柔らかくなったような気がするんだ。引っ越してきた最初の日の晩、二人、お部屋の前でお話ししてたでしょ。貞一郎くんがあんなふうに表情豊かに接するの、雪彦くんがはじめてだった。最近は教室でも、お友達と話しているところを見かけるようになったし。
前はずっと一匹狼で、どうしようもなかったんだから。

222 雪彦

貞一郎らしいね。

223 奈々生

少しも物怖じせずに貞一郎くんのこと呼び捨てにできるのなんて、雪彦くんくらいだったもん。それも、年下なのに、最初っから。

224 雪彦

貞一郎は優しいから。

225 奈々生

え?

226 雪彦

だから僕が呼び捨てにしても怒ったりしない。照れ隠しはするけどね。
それに、庭の梅の木。

227 奈々生

玄関先の?ああ、春先になると、すごく綺麗よね。

228 雪彦

僕と貞一郎は、あの梅が満開だった頃に出会ったんだ。学校説明会の時、たまたまここの前を通りかかってね。梅の花があまりにも綺麗だったから、僕は思わず足を止めて見蕩れていた。

229 奈々生

そういえば、春風亭に越してきた時、前にも会ったことがあるような感じだったね。

230 雪彦

うん。僕が梅の花に目を奪われていたらね、いつの間にか玄関先に、貞一郎が立っていた。それで僕に、声をかけてきてね。彼、あの花の名前も知らなかったんだよ。

231 奈々生

それこそ、貞一郎くんらしいわ。

232 雪彦

何をしてるって尋ねるから、梅の花を見ていたと答えたら、貞一郎、なんて言ったと思う?
〝そいつは俺の木だ。あまり気安く見るんじゃあない〟

233 奈々生

あははははは!何それ!貞一郎くんの家でもないのに、偉そうね。

234 雪彦

でも、それで僕は確信したんだ。ああ、この人は、こういう態度で煙に巻いているけど、本当はとても優しい人なんだって。名前は知らなくても、あの木がとても好きなんだって。
だから、春風亭で再び貞一郎と相まみえた時も、僕はちっとも彼が怖くなんかなかったよ。嫌われちゃったかなって、ちょっと心配にはなったけどね。それも吉野先生のことがあったからで、あとからちゃんと謝りにきてくれたし。

235 奈々生

貞一郎くんは、ひねくれてるから。

236 雪彦

確かにちょっと、素直ではないね。

◆奈々生と雪彦、笑い合う。(編集の都合上、長めにお願いします)

237 ほとり

!、……ふふ。

238 奈々生(M)

一緒にいたら、隠せないことの方が多いものです。
本当は私はこの時、既に気がついていたのかもしれません。気づいていて、見て見ぬふりをしたのかもしれません。
雪彦くんと二人、星に願ったあの晩のことを、私は死ぬまで忘れないことでしょう。だって私と雪彦くんが二人きりで語らったのは、あの日が最初で最後だったのですから。
やがてやってきた夏休みのあいだ、私は実家に帰省することになりました。ちょっとのあいだ、ほとりさんと雪彦くんと貞一郎くんとお別れです。

239 奈々生

それじゃあ、ほとりさん。店のこと、よろしく頼みますね。それから貞一郎くんが雪彦くんのこと虐めないように、ちゃんと見張っておいて下さい。

240 貞一郎

おい、どういう意味だよ。

241 ほとり

まっかせて。しっかり首輪つけておくわ。

242 貞一郎

ほ〜と〜り〜……。

243 雪彦

クスクス。

244 奈々生

貞一郎くん、雪彦くん。また春風亭でね。

245 貞一郎

おう。

246 雪彦

お元気で。

247 奈々生

それじゃ、みんな。またね!

248 貞一郎(M)

こうして奈々生は行ってしまった。
俺は親父との仲があるから実家には帰らないし、雪彦も長時間の移動は体に負担がかかるからと、この夏は春風亭に残るという。春風亭には、俺と雪彦とほとりだけが残された。
ほとりは相変わらず、店の方の仕事で急がしそうだ。必然的に俺と雪彦は、二人だけで過ごす時間が増えた。
奈々生の存在がいかに大きなものだったかということを、俺は身をもって実感しはじめていた。これまでは奈々生という潤滑剤があったから、俺は雪彦と自然に言葉を交わすことができていたのだ。ところがいざ奈々生がいなくなってみると、雪彦と何を話せばいいのかまるでわからない。これまでは二人揃って茶々を入れてくる奈々生と雪彦に俺が突っ込みを返すというのが常だったし、二つ年下の雪彦と共通の話題というのも、後輩とろくに関わりのない俺には見つけることができなかった。
雪彦も何を考えているのか、俺に必要以上の言葉をかけてくることはしない。
春風亭には、沈黙の帳が下りることが増えた。

近頃テレビでは、アポロ十一号の特集ばかりやっている。
人類がはじめて月面に着陸してから、今年の夏でまる一年が経ったのである。
俺と雪彦は居間でテレビを見ていることが多かったため、俺は興味もないアポロ十一号の月面着陸についての知識を、嫌でも頭に叩き込まれることになった。
雪彦が、ぽつんとその一言をこぼしたのは、そんなある日のことだった。

◆テレビでアポロ十一号月面着陸から一年経過のニュースをやっている。

249 アナウンサー

昨年七月二十日に人類をはじめて月面へと到達させたアポロ十一号。あれから一年以上が経った今も、未だ世界中が、この小さくて大きな一歩に、注目しています。
〝That's one small step for a man, one giant leap for mankind——〟

250 雪彦

体が丈夫であれば、僕は宇宙飛行士になりたかった。

251 貞一郎

——何故?

252 雪彦

(鼻で笑って)気分が良さそうじゃあないか。あれを見ろ。宇宙服はまるで奇怪で格好がつかないが、あんなに重たげなのに、宇宙飛行士たちは悠然と、美しい月の砂を掻いて歩いている。ああいう気分を、僕も一度味わってみたいものだ。

253 貞一郎

……なんかお前、今日はいつもと感じが違うな。

254 雪彦

そう?気のせいじゃない?

255 貞一郎

そんなになりたいなら、なればいいじゃあないか。

256 雪彦

そうだね。実に単純明快なことだ。

257 貞一郎(M)

そうつれなく言ったきり、雪彦はつと視線をブラウン管の画面に戻して、押し黙ってしまった。

258 貞一郎

……なあ、雪彦。

259 雪彦

うん?

260 貞一郎

何か宇宙飛行士になれない、理由でもあるのか。

261 雪彦

——どうしてそう思うの。

262 貞一郎

長時間の移動は体に負担がかかるから、ここに残ると言っていたな。
お前、病が悪くなっているんじゃないのか。

263 雪彦

悪くなっていたら、僕はとっくに吉野先生のところに追い返されているよ。

264 貞一郎

親父の名前を出して誤摩化そうってか。
そうはいかねえぞ。

265 雪彦

きみは聡いのか馬鹿なのかわからないね。

266 貞一郎

俺は馬鹿じゃねえ。あとそのきみってのはやめろと言ったはずだ。

267 雪彦

そうだったね。お前は馬鹿じゃない——貞一郎。

268 貞一郎

……っ!

269 雪彦

でも——そうだね。
(ひとりごちるように)僕には奈々生ちゃんの願いを叶えてあげることは難しいかもしれないな。

270 貞一郎

?、なんの話だ。

271 雪彦

さあね。貞一郎には関係ないよ。
僕と奈々生ちゃんだけの秘密。

272 貞一郎

ふざけてんのか。

273 雪彦

ふざけてなんかないよ。大真面目。

274 貞一郎

てめえっ……!

◆ほとりが通りすがる。

275 ほとり

——ん?ちょっとちょっと、なになに、喧嘩?やめてよね、今ここに仲裁役の奈々生ちゃんはいないんだから。男子二人は夏休みちゅう、おとなしくしてること!

276 雪彦

はい、すみません(笑顔)

277 貞一郎

……ちっ。

278 貞一郎(M)

結局その場は雪彦の奴とほとりの登場でうまくはぐらかされてしまったが、その頃から俺は、雪彦の病は実はとても重いものなのではないかと考えはじめていた。
それでも俺がそれ以来、病の話を持ち出さなかったのは、雪彦の言葉を信じたかったからだ。雪彦が俺や奈々生を騙しているなどと、どうしても思いたくはなかった。
ほとりに言われた通り、俺たちは夏休みの大概を、カラーテレビの置かれた居間でおとなしく過ごした。いつしか俺たちは、テレビを見ながらぽつりぽつりと、雪彦の好きな宇宙についての話をするようになった。

279 貞一郎

へえ、それじゃあ、当時宇宙技術において優っていたのは、アメリカよりもソ連だったのか。

280 雪彦

うん。アポロ11号の月面着陸以前に、ソ連は世界初の人工衛星、有人宇宙飛行、宇宙遊泳、月無人探査機の着陸など、あらゆる目標を先に達成していたからね。

281 貞一郎

ちっとも知らなかったな。

282 雪彦

当時は結構話題になったものだけれど。

283 貞一郎

んー……そういう話に全く興味なかったからなあ。

284 雪彦

貞一郎らしい。

285 貞一郎

だが、そのアメリカがどうして急に月面着陸なんて偉業を成し遂げちまったんだ。

286 雪彦

冷戦だよ。科学力においてソ連に劣っているという事実に、アメリカはショックを受けちゃったのさ。それで、失われた威信を取り戻すために有人月面着陸を行おうとした。
ソ連との冷戦の一環ではじまったアポロ計画は、成功した際の政治的な意味合いも大きい。だから計画成就のためにアメリカ政府は金を惜しまず、人類初の月面着陸を成功させることが叶ったってわけさ。

287 貞一郎

なるほどね。

288 雪彦

だけどさ、例え裏に政治的な思惑が絡んでいたとしても、人間が月に降り立つなんて、ロマンだと思わない?少なくともアポロ十一号の搭乗員たちは、きっと少しも政治的なことなんて考えてなくて、ただ月面着陸という人類の夢を叶えるために、みんながみんな必死だった。僕、アームストロング船長のあの言葉、大好きなんだ。
〝これは一人の人間にとっては小さな一歩だが、人類にとっては偉大な飛躍である〟

289 貞一郎

(笑って)……そうかもな。

290 貞一郎(M)

宇宙のことについて、正直に言ってしまうと俺は何の興味もなかったが、宇宙の話をしている時の雪彦を見るのは好きだった。そういう時の雪彦は、普段の蒼白い顔色がうそのように、他のどんな時よりもいきいきとして見えたからだ。

291 奈々生

たっだいまー!

292 貞一郎(M)

夏休みが終わる頃になり、奈々生が春風亭に帰ってくる。

293 ほとり

お帰りなさい、奈々生ちゃん。

294 奈々生

お久しぶりです、ほとりさん。

295 雪彦

お帰りなさい。

296 貞一郎

おう。

297 奈々生

あれ?二人が一緒に出てくるなんて、珍しい。

298 貞一郎

あ?そうか?

299 奈々生

うん。今までだったら二人が一緒に出てくるなんて、考えられない。

300 貞一郎

断言かよ!俺たちどんだけ仲悪いと思われてたんだ……。

301 ほとり

そうそう、貞一郎と雪彦くん、この夏休みのあいだにすっかり仲良くなっちゃったのよ〜。最初は喧嘩なんかもして、大変だったんだから。

302 貞一郎

ばっ……!余計なこと言うんじゃねえ、ほとり!

303 奈々生

へえ、そうだったんだ!だけどやっぱり喧嘩もしたのね。もう、ほとりさんに迷惑かけちゃ駄目じゃない、貞一郎くん。

304 貞一郎

なんで俺だけに言うんだよ。

305 奈々生

あーあ、長旅で何だか疲れちゃった!私、自分の部屋でちょっと休ませて貰いますね。
あ、これ、うちの実家のお土産です。皆さんでどうぞ。

306 貞一郎

無視かよ!

307 ほとり

ありがと。

308 奈々生

それじゃあみんな、積もる話はまたあとでね!それじゃ、おやすみなさーい!
(こそっと)……よかったね、貞一郎くん。

◆奈々生、走って自分の部屋に行ってしまう。

309 貞一郎

だからなんで俺に言うんだよ!

310 雪彦

クスクス。

311 貞一郎

〜〜〜っ!

312 貞一郎(M)

全く女というのは、妙なところで聡くて嫌になる。それというのに俺がその時、奈々生の言葉を否定できなかったのは、雪彦とごく自然に会話を交わすことができるようになって、俺自身、心のどこかでそのことを、嬉しく思っていたからかもしれない。

——雪彦が倒れたのは、そんな矢先のことだったのだ。

***冒頭の音使い回しここから***

雪彦

……っ!(心臓発作を起こして倒れる)

貞一郎

……雪彦?

奈々生

雪彦くん!

ほとり

奈々生ちゃん、すぐに救急車を!

奈々生

はいっ!

雪彦

(荒い息遣い)

貞一郎

雪彦……おい雪彦、しっかりしろ!雪彦!

◆SE:救急車

***冒頭の音使い回しここまで***

313 貞一郎(M)

これが悪夢であったならと、どれほど強く願ったことだろうか。ほとりと奈々生と三人、救急車の中で身を寄せ合い、毛布の端からはみ出した、力なく揺れる雪彦のつま先を呆然と見つめながら、俺はそのあまりの現実味のなさに、途方に暮れるほかなかった。

隣町の病院に着くなり、即座に緊急治療室に運び込まれた雪彦を、俺たちはじっと待った。まるで未来永劫続くかのようにも思える、長い長い時間だった。
やがてほとりだけが治療室に呼ばれ、医師と話をしているらしかった。
暫くして、治療室から出てきたほとりの顔色は、優れなかった。

314 貞一郎

ほとり!

315 奈々生

ほとりさん!雪彦くんは……!?

316 ほとり

雪彦くんなら、意識が戻ったわ。

317 貞一郎

(安堵の息をつく)

318 奈々生

よかった……!

319 ほとり

——あのね、奈々生ちゃん、貞一郎。二人に、大切な話があるの。
雪彦くんからの、伝言よ。

320 奈々生

雪彦くんから……?

321 貞一郎

……。

322 ほとり

雪彦くんはもう、先が長くない。

323 奈々生

え……、

324 貞一郎

……!

325 ほとり

それは雪彦くんがはじめて春風亭に来た時から、わかっていたことだった。

326 奈々生

……!、そんな……!
でもあの時は雪彦くん、自分の病気は大したことないって……!

327 ほとり

雪彦くんのお母さんと私はね、旧い友人なの。
だからその息子さんが重い心臓の病に冒されていて、先が長くないこともずっと知っていた。知っていて、雪彦くんを春風亭に受け入れたの。雪彦くんは桜田高校への入学を強く望んでいたし、例え明日がわからずとも、生きているうちはできる限り雪彦くんの望みを叶えてあげることが、ご両親の願いだったから。

328 奈々生・貞一郎

(絶句)

329 ほとり

二人には騙すような真似をして、悪いことをしたと思っているわ。でも、一緒に暮らす人たちには余計な気を遣わせたくないっていう雪彦くんの思いを尊重してあげたかったから——、

330 貞一郎

——あンの野郎!

331 ほとり・奈々生

貞一郎(くん)!?

332 貞一郎

舐めた真似してくれやがって。一発横っ面ぶん殴ってやる!

333 ほとり

やめなさい、貞一郎!

334 奈々生

だめェッ、貞一郎くん!

335 貞一郎

離せ奈々生!どけ、ほとり!

336 奈々生

嫌!

337 ほとり

あんたがその拳を下ろさない以上、この部屋には入らせないわよ。

338 貞一郎

チィッ……!
おい雪彦!聞こえてんだろ!
俺はお前を許さねえぞ!小賢しい真似してくれやがって!
そうだ、お前が死んだって、俺はお前を許さねえ!
……!、クッソ……!
俺は帰る!もうこんなところに用はねえ!

◆貞一郎、奈々生の手を振りほどいて去る。

339 奈々生

ちょっと……!貞一郎くん!

340 ほとり

あの馬鹿……!奈々生ちゃん、貞一郎をお願い。
あたしは雪彦くんについて今夜はここに残るわ。

341 奈々生

わかりました!

◆奈々生、走り去る。

342 雪彦

——ごめんね。

343 貞一郎(M)

そのまま雪彦は、長期の入院をすることが決まった。
俺はあれ以来ずっと、雪彦のいる隣町の病院には行っていなかった。
奈々生は学校帰りにしょっちゅう見舞いに行っているようだし、ほとりも店が休みの日にはつきっきりで看病をしているらしかったが、俺は、どうしても悔しかったのだ。あんなにも瞳を輝かせて宇宙への夢を語らった雪彦が、そんな大事なことを俺たちに隠していたことが。裏切られたような、気がしたのだ。
ほとりと奈々生は俺に対してよそよそしい態度を取るようになり、春風亭にはどこかぎこちない空気が漂うようになった。勿論、奈々生と一緒に登校することもなくなった。雪彦の姿がそこにないだけで、世界にはぽっかりと穴が空いてしまったかのようだった。
雪彦の存在が次第に薄れ行くことが、俺にはそら恐ろしく思えた。
木々が色づく秋が過ぎ、凍てつく冬が訪れていた。そして一つの決意を胸に、俺はようやくはじめて、雪彦の病室の前に立っている。

◆SE:ノック

344 雪彦

どうぞ。

345 貞一郎

……よう。

346 雪彦

——貞一郎、

347 貞一郎

見ないうちに少し、痩せたな。

348 雪彦

そうかな。自分のことはよく、わからないや。
まさかお前が来てくれるとは思わなかった。外は寒かっただろう(ベッドから体を起こそうとする)

349 貞一郎

ああ、いい。まだ寝ていろ。

350 雪彦

平気だ。今日は随分調子がいいんだ。

351 貞一郎

だめだ。じきに薬の時間だろう。それまではちゃんと体を休めていろ。

352 雪彦

吉野先生と違って、貞一郎は頭が固いな。

353 貞一郎

放っとけ!
生まれついての性分だ。
おれは親父のようにはなれないし、なりたいとも思わん。

354 雪彦

僕が生まれついての病であるのと同じに、か。

355 貞一郎

!!

356 雪彦

——ごめん、嫌なことを言ったね。

◆沈黙。

357 貞一郎

——なあ、雪彦。
お前どうして、病のことを隠していたんだ。

358 雪彦

……!

359 貞一郎

本当は出会ったときから、お前の病は悪かったんだろう。
なのに、どうということもないような顔をして……、

360 雪彦

——とおまでもたぬと言われて育ってきた。

361貞一郎

え……。

362 雪彦

その体をだましだまし、どうにか今日まで生きてきた。
僕は本来なら、ここにいないはずの存在なんだよ。そんなこと、誰にも知られたくはなかった。特に僕と長い時間を共に過ごす人たちにはね。
本当は最後まで、言わないつもりだった。
それなのに言ってしまったのは、何故だろうね。

363 貞一郎

……。
——雪彦。俺は今、勉強をしているんだ。医者になるための勉強だ。
俺は医大に行くんだ。そう決めた。

364 雪彦

夢ができたんだね。素敵だ。

365 貞一郎

親父のあとを継ぐ形になっちまうのは癪だが、そんなものはたまたまだ。
俺は俺の意志で医者になると決めた。

366 雪彦

そっか。——ねえ、貞一郎。僕のぶんまで夢を叶えて。

367 貞一郎

……!

368 雪彦

月の満ち欠けと同じように、人の夢の形はそれぞれ違えども、天へと焦がれる気持ちは皆同じだ。月面着陸を強く夢見たアポロ十一号の宇宙飛行士たちのように。
だから、僕のぶんまで。そして僕のこと、どうか忘れて。

369 貞一郎

何を……。

370 雪彦

奈々生ちゃんとね、二人で流れ星に願い事をしたことがあったんだ。
僕はこう願ったよ。〝例え僕が死んでも、春風亭の人たちが、僕のことを忘れて幸せに生きてくれますように〟って。

371 貞一郎

!!

372 雪彦

明日をもわからぬ身だとわかっていながら、僕は春風亭の人たちに親しみを抱いてしまった。はじめは一緒に暮らすことになる人たちと、一線を引いていようと思っていたんだ。なのに貞一郎たちはいとも容易く、僕の心をこじ開けてしまった。
だからこれは僕の罪なんだ。忘れ去られることは、僕の罰なんだ。

373 貞一郎

何だよ、それ……。

374 雪彦

ごめんね。

375 貞一郎

……っ、何だよ……!勝手なことばっか抜かしやがってっ……!
ふざけんなふざけんなふざけんな!!

376 雪彦

貞一郎……。

377 貞一郎

俺がどうして医者になると決めたか、わかるか。

378 雪彦

え、

379 貞一郎

お前のような奴を、一人でも多く宇宙飛行士にしてやるためだ。

380 雪彦

ぁ……。

381 貞一郎

俺は雪彦、お前の生き様が眩しかった。
お前は心臓を患っていながら、憧れだった兄のあとを追って桜田高校に入学し、その上宇宙飛行士になりたいという夢まで持っていた。
そのことを知った時、俺は自分が情けなかったよ。俺はどこもかしこも健康なのに、自分の未来に何の理想も描けず、怠惰な日々を過ごしていた。理由なんてわかりきってる、親父へのくだらない反抗心だ。俺がお前にどこかすげなく接してしまったのも、真っ直ぐに前を向いて歩むお前が羨ましかったからだ。お前が俺の前に現れなかったら、俺は今でも夢の一つも持てずに、怠惰な日々を送り続けていたことだろう。
お前の病が本当はとても重くて、夢を叶えることすら叶わないと知ったあの時、俺はもう医者になることを決意していた。
雪彦。俺を変えてくれたのは、お前なんだ。
——わかってるよこんなのはただの俺のエゴだ、それでも!
俺はお前を絶対に忘れたりなんかしない。絶対にだ。

382 雪彦

……!

383 貞一郎

どうして……お前なんだよ……。

384 雪彦

——貞一郎、

385 貞一郎

宇宙飛行士になるんだろう……!?
お前、そう言ったじゃないか……!

386 雪彦

——エゴっていうなら僕の方だろう。

387 貞一郎

……?何が、

388 雪彦

さわってみろ。

389 貞一郎

……。のどを、か?

390 雪彦

早く。

391 貞一郎

……(雪彦ののどぼとけにそっとふれる)

392 雪彦

僕が焼かれたら、これが残る。こののどの尖りが、仏の姿をした小さな骨となって残される。だから、この感触を忘れるな。

393 貞一郎

……!

394 雪彦

——またうそをついてしまうところだったね。
僕は本当にどうしようもないうそつきだ。
貞一郎。これが僕の本当の、本当に正直な気持ち。僕は本当は、お前に忘れられたくなんかない。お前や奈々生ちゃんやほとりさんに、僕が生きていたことを覚えていてほしい。
ほらね。僕はわがままな奴だろう。

395 貞一郎(M)

ああ、こいつは知らないんだ。
今にも弱く羽ばたいてどこかへ飛んでいってしまいそうな儚げな感触を、ふれる肌に灼きつけながら、俺は奇妙なかなしさを覚えていた。
火葬のあとに残される仏の姿をした骨は、こののどの尖りではない。
今、俺がふれているこれは、炎のうちに溶けて消えてしまう。まるでふれたそばから熱に形を失くし、消え入ってしまう雪のように。
知らないまま、こいつは死んでいく。
その事実が無性に、かなしかった。

396 貞一郎

——ああ、忘れねえよ……!
例えお前が死んだって、お前が死んだことを俺は許さねえ。

397 雪彦

っふふ、何だよそれ。

398 貞一郎

忘れねえからな。

399 雪彦

……!、……うん。
——あ。雪。

400 貞一郎

あ……。

401 雪彦

貞一郎、知っているかい。月面に足を踏み下ろす時、アームストロング船長は月の様子をこう表現した。
〝今、着陸船の脚の上に立っている。脚は月面に1インチか2インチほど沈んでいるが、月の表面は近づいて見るとかなり……、かなりなめらかだ。ほとんど粉のように見える。月面ははっきりと見えている——〟
——月の砂は、この雪のように白いのかなあ。或いは焼かれた骨のように。

〝僕はもう、あのさそりのように 本当にみんなの幸いの為なら
 僕の身体なんか 百ぺん焼いてもかまわない——〟

402 貞一郎

……っ、(泣き崩れる)

403 奈々生(M)

いつものように雪彦くんのお見舞いに来て、病室の中に貞一郎くんの気配があるのに気がついた時、私は重く閉ざされたそのドアを開けることができませんでした。
廊下の壁に背中を預け、貞一郎くんが声もなく泣き崩れるのをぼんやりと聞きながら、ただ、何かが静かに終わっていくのを感じていました。

◆貞一郎、病室から出てくる。

404 貞一郎

——聞いてたのかよ。

405 奈々生

うん。

406 貞一郎

……。奈々生。

407 奈々生

うん?

408 貞一郎

俺は医大に入るために猛勉強する。だから邪魔すんじゃねえぞ。

409 奈々生

……!、うん。

410 貞一郎(M)

その言葉通り、雪彦が倒れたあの日以来、春風亭にいる時間のほとんどを、俺は机に向かって過ごしていた。他の人間がじっくりと時間をかけて学ぶものを、たった数ヶ月で頭に叩き込むのだ。並大抵のことじゃない。だが何としても、俺は雪彦が生きているうちに医大に合格しなければならなかった。
元より親父は医者だから多少の知識はあるし、学校の授業だってなんだかんだでちゃんと受けていた。物覚えもいい方だと自負している。俺は順調に、ひとつひとつの行程をこなしていった。夜、眠くなってきた頃を見計らったかのように、ほとりの淹れた珈琲を奈々生が部屋まで届けてくれるのが、ありがたかった。
そして、二月。俺は無事、第一志望の私立医大に合格した。

***

411 ほとり

それじゃあ奈々生ちゃん。準備はいーい?

412 奈々生

はいっ!

413 ほとり

せーのっ!

414 ほとり・奈々生

雪彦くん、貞一郎(くん)、退院と医大合格おめでとうー!

415 貞一郎・雪彦

(居間に入ってきて目をぱちくり)

416 貞一郎

……どういう風の吹き回しだ?こりゃ。

417 ほとり

ふっふーん。奈々生ちゃんと二人で、雪彦くんの退院日に合わせてこっそりお祝いパーティー計画してたのよ。

418 奈々生

貞一郎くんが雪彦くんを迎えに行ってるあいだに全部飾り付けるの、すっごーく大変だったんだから!

419 ほとり

奈々生ちゃんのポカで、貞一郎には何度かばれそうになったけどね。
あんたが鈍い奴でつくづくよかったわあ。

420 奈々生

もぉ〜っ、ほとりさん!ごめんなさいってばぁ〜!

421 貞一郎

あのなあ……!

422 雪彦

うわあ、すごい……!春風亭じゃないみたいだ。

423 貞一郎

……!、っふ(笑う)

424 ほとり

でも、ここが雪彦くんの帰ってきたかった場所でしょ。

425 雪彦

……!、はい。
(改まって)ほとりさん、奈々生ちゃん。本当に、ありがとうございます。

426 奈々生

えへへ〜。

427 ほとり

やぁだ、なぁに?そんなに改まらないでちょうだい。
このくらい当然でしょ。
さ!今日はパーッと騒ぐわよー!
雪彦くん、何食べる?

428 雪彦

何でも食べますよ。

429 ほとり

あはは!じゃあ今日は、胃袋の許す限りたっくさん食べてちょうだい!
奈々生ちゃんと腕によりをかけて作った料理だからね。

430 奈々生

あ!貞一郎くん、今私のお皿から取ったぁー!

431 貞一郎

(食べながら)うるせえ。

432 奈々生

返せ返せ、口から吐き出せー!

433 貞一郎

(飲み込んで)もう腹ん中だよ。いや、まだこの辺か?

434 奈々生

もーっ!

435 ほとり

ほらほら、喧嘩しないで仲良く食べなさい!
料理ならたくさんあるんだから。

436 奈々生

(同時に)はーい!

437 貞一郎

(同時に)へーい。

438 雪彦

クスクス。

439 貞一郎

おい、雪彦。

440 雪彦

うん?

441 貞一郎

ぼーっと見てないで、お前も食え。

442 雪彦

……うん!

443 ほとり・奈々生

ふふっ(笑い合う)

444 貞一郎(M)

雪彦は学校にはもう行かない。体を満足に動かすことすら、もう叶わないのだ。
この退院も、決して前向きな意味を持つものではない。俺や奈々生やほとりと過ごしたこの町で死にたいと、雪彦が望んで、ここへ帰ってきたのだ。
雪解けの水が小川のせせらぎとなり、雪の下にうずもれていた若いふきとうや、福寿草の黄色い花が芽吹き、そうしてまた、あの庭の梅の蕾が再びこぼれ咲く頃には、雪彦は既にここにはいないだろう。ここにいる誰もが、それを知っている。知っていて、笑い合う。雪彦の存在がここに在る、今この瞬間が、奇跡のように大事だから。
そうしていつの日か、月の砂を渡る夢を見るのだ。

445 雪彦

貞一郎。

446 貞一郎

(食べながら)あ?

447 雪彦

ありがとう。

448 貞一郎

……ああ。

THE END.